玄武館中に子どもたちの気合いがこだまする。
紅蝶は己の身丈と同じ長さの木刀を構え、床を蹴った。目の前で構えを崩さずに紅蝶の攻撃を待っていた悠がにやりと笑った。
持っている薙刀(刃先は綿で覆ってある)を軽やかに操り、紅蝶が足をついた瞬間を付く。
「踏み込みが甘いっ」
「うぎゅっ」
そのままどんっと床に尻もち。胡坐をかいて2人の様子を見守っていた―というかサボっていた新が声を出す。
「受け身とらねーと怪我するぜー」
「! うん…っ、て、いたああっ」
一瞬新の方を見た紅蝶の木刀が弧を描いて宙を飛ぶ。悠は低姿勢から構えに戻り、にっこりと笑う。
「隙あり。一本」
「ああ~~…」
しょぼんと肩を落としてから紅蝶は立ち上がってぺこりとお辞儀をした。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました。ほれ木刀とってこーい」
「…あんなとこにーっ!!」
高く高く投げ飛ばされた木刀は道場内の一番端の場所に落ちていた。紅蝶の尻もちをついた場所からかなり遠い。
おーまいがっと嘆きながら紅蝶が走りだす。
「そろそろ紅蝶も姫兵試験受けられるんじゃねえ? 今度の冬だろ?」
「あーそうだなあー…」
小さい背中を見ながら生返事を返す。
「悠が受かったの、八つの時だろ? 早いってことは……」
「なんだよ」
言葉を切って、新はにやにやと悠を眺める。
「あーまだ妹分でいてほしいってかー? かーわいいーなあ悠はー」
「悠姐にセクハラするな馬鹿あらたっ」
「ぐぉあっ」
弁慶の泣き所に紅蝶の膝がクリーンヒット。かなり痛い。
蹲って悶絶している新に蹴りを一つ入れて、悠が立ち上がる。
「紅蝶、いまお前何段だっけ?」
「う? あーっと…うーんと、五段! 錬士になったっ」
紅蝶の瞳がきらきら光り、幻覚だろうか。褒めて褒めてと大きな尻尾が揺れている気がする。
「頑張ったな。五段以上は難しくなってくるぞ?」
「だいじょうぶっ! 月緑もな、正初位下を賜る試験受けるんだっ! 二人で頑張るんだー!」
にかっと白い歯を見せて笑う妹分の頭を撫でる。なんとなく、むかしの思い出がおぼろげに頭をよぎった。
「俺も出世しなきゃなあー」
復活した新がしまっていた印籠を取り出してぼやく。
「じゃないと悠姐に見捨てられるから?」
「うんそうそう」
「じゃかしいわっ!!」
ごんっごんっ。と新と紅蝶の脳天に悠の拳骨が下される。
「や、官位の話。軍位は…いま、中尉だろ? でも官位だと、正三位(しょうさんみ)の近衛大将なわけ。将来は現春宮の側用人、なんて言われてっからさあー…」
「あらたに期待するなんて…」
「紅蝶…それフォローじゃねーから。蒼牙、あいつずっりーんだぞ、知らねえ間に昇格の試験受けて、いま従五位下、小納言になっちまってよー」
ぶちぶち言う新の隣に座って、悠がため息をつく。
「蒼牙は、しょーがないんじゃん? いまのうちに行けるとこまで行っとかないと結婚が…」
慌てて言葉を切る。目の前できらきら目を輝かせた紅蝶が二人を見下ろしていた。
「けっこんっ!? そうが、結婚すんの!?」
「いや、ちがう…くないけどちがう。ほ、ほら身分が高ければ高いほど…高位の姫を妻にできるじゃねーか、な?」
新が慌てて助けに入る。悠も相槌をうって冷や汗をかきながら口を引きつらせる。
「そうそうっあいつなんたって海神の若君だしー」
「…でも、嫡流は継がないんだろ? なちがいるからって。それに、海神の若様つったらあらたもいっしょじゃん」
ぐ。と悠と新が詰まる。しかしそこは一応年上。新が人差し指を立てて口火を切る。
「お、俺はもう悠と夫婦(めおと)になるって決めてっからさーっあはははは」
「なんでだふがっ」
慌てて否定する悠の口をふさぐ。すると紅蝶はぽんっと両手を打った。
「さすがあらたっ身分で女を選んでないってことだなっ? でもそうが、身分高い女が好みなんだーそうかー」
いえ、好みというかなんというか。
想いを寄せているのが、帝の妹君なのデスヨ。
なんとか紅蝶が納得した様子を見て、新と悠が同時に安堵のため息をついた。
fin.
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紅蝶とゆうあら。こんなふうに賑やかにやっております(笑)
うふふ^^v
紅ちゃん、早く会いたい……
逢わせましょう♪
喰い放題♪
やったあ♪