「ただいま帰りました」
玄関のドアをあけると、ちょうど少し困ったような表情を浮かべた梨花子が階段から降りてきたところだった。
「あ、雪路さん。おかえりなさい。さむかったでしょう」
「? どうかした? お義母さん」
「雪矢くんがね、さっき帰ってきたと思ったのに、いないの。どこへいってしまったのかしら…」
雪路はきょとんと眼を瞠ってから、にこりと笑った。
「それじゃあ、僕が探してくるよ。きっと家の敷地からはでてないだろうから」
鞄を梨花子に預けて、雪路はもう一度玄関の戸に手をかける。
「そう…?」
「お義母さんは桜についていて。熱が下がってないんだろう?」
振り向いてそう問いかけると、梨花子は上を見上げて、苦笑をした。
「…そうね…じゃあお願いしてもいいかしら。ココアをいれておくわね?」
「はい。すぐ帰ってくるから」
外に出て、きょろりと辺りを見回す。雪路は迷わず梨花子の手入れが行き届いた庭に向かった。そのまま家の裏にまわり、ため息をつく。家の裏は蔵、塀、その向こうは北山のふもとで森がある。
その森の方からごそごそという音としゃくりあげる声が聞こえてきた。身軽に塀を乗り越えると、大きな箱のなかに、色とりどりのプレゼントをつめこんでいる雪矢の姿があった。
「雪矢」
「!! お、おにいちゃ…」
「…それは?」
雪矢はくしゃりと顔をゆがめた。そして、ぺたんと地面に座り込む。
「…分家から来た……僕と、お兄ちゃん宛にきた…プレゼント…」
「去年の倍はあるな」
冷静に目分量で測る。雪矢はぎりっと歯を食いしばった。
「いらない、っていってるのに…っ! 桜には何もあげないで、いじわるしてるんだ…っ」
「……」
まるで子供の嫌がらせだな、と雪路は嘆息した。雪路と雪矢の誕生日には分家からさまざまな贈り物が来る。最初は常識程度の数だったのに、眼に見えてあてつけるように量が増えたのは桜が物心ついてからだったように思う。むろん桜には何もない。
自分たちが幼いうちは父の雪都が全部は返さなくとも、あきらかに度が過ぎたプレゼントは返していた。
だが二人とも物の分別がわかるようになると、それもなくなった。雪路は、両親からもらうもの以外、受け取らないと決めた。それでも来るものは梨花子にとめられるが焼却させていただいている。下心が見え見えのプレゼントなんていらない。
ただ、雪矢は優しい子だ。この子の分は去年まで父が整理していたのだが、今年は自分で決めなさいと言われたのだ。まだ幼い雪矢にとって、たくさんのプレゼントが嬉しくないわけがない。けれど、大切な桜をないがしろにしていることが許せないという気持ちが膨らんだのだろう。どうしようもない気持ちを持て余したまま、とりあえず隠すという結論に至ったのだ。
「雪矢。お前、無理に僕の真似をしなくたっていいんだぞ」
なんとなくこのあとの弟の行動がわかって、雪路が諭す。雪矢はびくっと肩を揺らしてぶんぶんと頭を振った。
「……桜にないなら僕もいらない」
「…だからって、菜々子ちゃんからのも、捨てるのか?」
「っ」
雪矢は頬をかあっと赤くした。
「…お前、菜々子ちゃんの誕生日におくったプレゼント、捨てられたらどう思う」
「かなしい…」
「なら捨てるな。ぜんぶ捨てようとしなくていいんだ」
ぶわっと雪矢の瞳にたまっていた涙があふれ出す。そして雪路にしがみついてわんわんと泣き声をあげた。
「まったく…九つになっても泣き虫が直らないか…」
「う…っ」
唇を噛んで我慢しようとする弟の頭をなでながら、ふと雪路は塀の向こうからこちらに近づく気配に気づいた。
その足音は蔵のあたりでとまって、ふわんとした声がひびいた。
「おにいちゃま、おにいちゃんっどこおー?」
「…こらっ桜、寝ていなくちゃだめでしょうっ」
「やっ! だって、さんたさんきたんだもん。おにいちゃんたちとあけるのっおとうちゃま、このおうちにさんたがきたの、はじめてなんでしょう?」
雪矢と雪路が顔を見合わせる。サンタ?サンタクロースがうちにきた?クリスマスには縁がない自分たちに?
「そうだねえ。桜達がいい子だからなあ。白神さまにおゆるしをいただいたのかもしれないね」
「じゃあ、しらかみちゃまからのプレゼントでもあるの?」
「そうだね。桜は賢いな」
きゃっきゃっと桜が手をうって喜ぶ様子が伝わってくる。雪路は節也の顔をのぞきこんだ。目は紅いが、腫れた様子はない。
「これはまたあとで、菜々子ちゃんのだけもっていきなさい」
「…うん…」
小さな小さな春色のラッピングがされた袋をぎゅっと握りしめて、雪矢は雪路の背に乗った。雪路は塀からひょこっと顔を出してにこっと笑う。
「お父さん、お義母さん、こっち。雪矢、塀であそんでたらおちちゃったみたいなんだ」
「ほう? 雪矢、けがはないか?」
「うん…」
雪路の腕から父の腕に抱き抱えられ、雪矢は少し嬉しそうな顔をした。父は多忙だから、近くにいるのがくすぐったくてたまらないらしい。ひょいっと塀を飛び越えた雪路は、桜の前で少しかがむ。
「桜、サンタクロースが来たんだって?」
「うんっあのね、あのね、えっと…桜にふたっつ、おにいちゃまたちにもふたっつ、それでね、いっこあまってるの」
二つは両親からの分だろうが、もうひとつ?
「三人の分みたいね」
くすくすと梨花子が意味ありげに笑う。桜はにこにこしながら雪路にだっこをねだった。雪路は羽のように軽い妹を抱えて、父に抱きかかえられている雪矢をみる。
「じゃあ、三人でいっしょにあけよう」
三人に贈られた大きな箱には小型のプラネタリウムが入っていた。桜、雪路、雪矢はともに星を見るのが大好きだ。だが桜は身体が弱くてなかなか星空をみることが難しい。
だから、部屋でも満天の星空が見えるように、と日下本家から送られてきたらしい。
その日一日中、三兄妹は両親に見守られながら、天井や壁一面にひろがる星空を飽きることなく見つめ続けた。
fin.
あれ、雪あきじゃない…?ま、いいか(笑)
まだ家族が元気だった頃……
……
えっえっ!(桜)