祝宴の喧騒が遠のき、奥の館に戻ると、龍彦は足を止めて腕の中のあきらを見下ろした。
「……大丈夫か?」
「平気よ」
すぐに返事は返ってきたものの、いつものような覇気がない。顔色は青白いし、軽すぎる。随分痩せたようだ。
身体を苦しめる鱗の痣に加えて、あの忌々しい組織に邪香をかがされていたのだ。疲労困憊して当たり前である。
「…無理はさせたくないんだが」
「…あたし、大丈夫よ。頑張れる」
「いやお前が頑張ることじゃない。俺だ」
幸い萌が邪香の効力を消す破魔の香を調合したため大事にはいたってないが、こうも弱り切っている身体を、はたして自分は抱けるのか。
だが、やらねばならぬ時なのだ。あきらには時間がない。あの異国から来た人魚の少女は、『次の満月を超えたら間に合わない』と警告した。あきらの回復を待つ時間はない。早く血を鎮めなければ、あきらの心と体が壊れてしまう。
などといって、なによりあきらを早く抱きたいと思っている自分を正当化しているのではないかという気分にもなってきた。
そんなことを堂々巡りに考えているうちに、自分の部屋についてしまう。
もう悩んでいる暇はない。男子たるもの腹を据えて挑むべし。
そう自分に言い聞かせつつも、龍彦はあきらにぼそりと言い置いた。
「……俺を煽るなよ」
「え?」
「…。聞こえてなかったなら良い」
いやに軽い身体を抱え直して襖障子を開いた。室内の明かりは、置行灯のみで、薄ぼんやりと畳を照らしていた。室内用の吊り灯籠の明かりをともそうとすると、腕の中であきらが龍彦の袷を引っ張った。
「…あの…あんまり…明るく、しないで…?」
ほんのり頬を染めて、伏し目がちに訴えられる。
「…………分かった」
先ほど部屋の前で言った言葉をもっときちんと伝えておくんだったと、己の失態に舌をうちたくなる。
龍彦の部屋は、手前が来客用の小座敷になっていて、次の間を書室としてあてている。そして奥の座敷が、寝屋である。
彼の几帳面な性格が写し出されたように片付いている部屋に、あきらはため息をついた。自分もこのくらい綺麗にしなくては。最後に自分の部屋を使った日を思い出し、苦笑いをしてしまう。
龍彦はすたすたと窓辺にそえるように備えられた寝台に目指し、壊れものを扱うようにその上にあきらをおろした。その隣に座って、肩を引き寄せる。
こてん、と頭を預けてきたあきらの髪を撫ぜながら口を開く。
「…疲れたか?」
「ううん。大丈夫…。…あのね…」
「?」
「な、なんにもわからない、の…」
あきらはそう口にしてから、そのまま俯いてしまう。羞恥に震える手のひらをとって、龍彦は自分の胸元にあきらを抱き寄せた。
「お前…そういう可愛いことを言っていると…加減できなくなるぞ」
「加減…」
一拍置いてあきらの頬が真っ赤に染まる。龍彦は苦笑した。
「まあ今日はしないから安心しておけ。お前の負担が軽く済むよう努力する故、気分が悪くなったらすぐ言うように」
「……義兄上、先生みたい」
すっとんきょんなあきらの言葉に、龍彦の口端が吊りあがった。あまりに秀麗な微笑みに、どきりとあきらの心臓が跳ね上がる。
「そうだな。ひとつひとつ丁寧に教えてやる」
ぐいっと腰を引き寄せられて、悲鳴をあげる前に唇が塞がれていた。一瞬のそれに、痺れるような感覚が身体をほとばしる。
思わず目蓋を閉じれば、龍彦が軽く笑んだ気配がふわりと伝わってくる。そうして触れるだけの口付けが濃いものへと変化した。
「…んっ」
するりと舌を差し込まれて、びくりと反応したあきらが小さく声を漏らす。
以前いきなり差し込まれた時は吃驚して天地がひっくりかえるかと思うほど動揺して慌てふためいたが、今回はなんとか頬を染めるにとどまった。
薄眼で龍彦の様子を窺うと、まるで『上手くなったじゃないか』とでもいうように目を細めている。
そのまま口づけを落としながら、龍彦はゆっくりとあきらの身体を押し倒した。自然と離れた唇で、あきらがぎこちなく呼吸しているのを、苦笑して眺めやりながら優しく前髪を払う。
あきらに覆いかぶさった龍彦は、あきらの脇に肘をつき、耳元で小さくささやいた。ぴくり、と震えてからあきらは顔を真っ赤にしながら龍彦の首元に腕をまわした。
「これで、い…?」
そうすると、鼻先がこすれるくらい二人の距離が縮んだ。
確認するように首を少しだけかしげると、唐突に、前触れもなく、龍彦がふわりと微笑んだ。
誰にも心を悟られないよう、いつでも硬い顔をしている義兄が笑っている。
あきらは、目頭が熱くなるのを必死で隠そうと、精一杯微笑み返した。心がどうしようもなく震えた。胸が熱い。優しくて、甘い気持ちがあふれてくる。
何か言わなくてはという衝動にかられるが、胸が詰まって何も言えない。そんなあきらの様子をいとおしむように見つめていた龍彦が、そっと囁いた。
「あきら。―――――好きだ」
その、たった一言の言葉に、潤んでいた瞳から涙が零れる。
「あ、たしも…好き……」
涙交じりで、掠れ切った声でも、確かに龍彦には届いたようだった。満足げに薄く笑うと、また唇を重ねた。深く、縫いとめるように。
◇◇
「ぅ…っ、ん…」
龍彦は何度も押しつけるようにあきらの唇を吸った。互いの唇の柔らかさ、熱さを分け合って溶かそうとでもするかのように。
舌先で咥内を愛でられると、くすぐったいような、身体の中心が疼くような心地になる。
気持ちを改めて言葉にされた時のうれしさを、どうにか返せないものかと、あきらは意を決してぎこちなく自分の舌を動かした。
髪を撫でていた龍彦の指が一瞬止まる。もしや、はしたないと思われたのかもしれないと、慌てて離れようとしたが、時すでにおそし。
するりと舌がとらえられて、いいように吸いあげられた。増していく濡れた音に、羞恥心が煽られて、とてもではないが自分からは動けない。
あきらは龍彦の首元にすがりついて、つたない舌遣いで応えることしかできない。それをいいことに、龍彦は慣れた手つきで、帯を解き、するするとあきらの着物を緩めていった。
「……ゃぁっ…!?」
衣服の緩みに気づいて、あきらが慌てて身体をよじらせる。だが、強く首筋を吸われて、抵抗の声は小さな喘ぎとなって空気に溶けた。
「ぁ、まって、あにう…」
「龍彦だ」
顎のあたりから声が届いて、肌に直に息が触れる。あきらは肩を震わせた。
「義兄上じゃない。お前を抱く男は…、龍彦だ」
身を少し起こした龍彦は低く囁く。真摯な瞳に射抜かれて、あきらは頬を染めて俯いた。
乱れた袷を握りしめて、大きく深呼吸する。あきらはおそるおそる顔をあげる。
「……た、」
口付けよりも、服を脱がせられることよりも、名前を呼ぶほうがずっとずっと恥ずかしいかった。
そのまま固まってしまったあきらが、再び唇を開くまで、龍彦は待つ。…やわ肌を滑る手は止まる気配を見せなかったが。
ぱくぱくと口を何度も開閉するのを繰り返し、やっと覚悟が定まったのか、あきらは龍彦に回す腕に力をこめた。
「た、たつひこ、さん…」
恥ずかしくて顔が見れなくて、身体を起こす。ぎゅ、と肩口に顔を押し付けた。さら、とようやく肩をこえた黒髪が揺れる。
「…有難う」
はっと顔をあげると、表情を確認する間も与えられずに荒々しく唇を塞がれる。いつのまにか胸元に忍び込んでいた無骨な手が形のよい乳房を包んだ。
離れた唇が首筋を伝い、鎖骨を辿り、胸元に達する。裾野を音を立てて吸いつかれて、あきらは悲鳴をあげそうになるのを必死で耐えた。
あまりの恥ずかしさに、身を隠してしまいたいほどだ。けれど、それ以上に龍彦を受け入れたい想いが勝り、彼女を寝台に縫いつけていた。
顔だけではなく身体全体が赤く染まり、漏れる声は聞いたこともなくふしだらで甘い。自分のそんな声を聞くのが嫌で、こらえるために、龍彦の脱ぎ去った小袖をきつく噛みしめた。
頭上であきらがそんなことをしているのを知ってか知らずか、龍彦は執拗に胸元に優しく愛撫を落とし続けた。
龍彦の手のひらより一回り小さい乳房の片方を指で揉みしだき、一方の乳房の頂を口に含んで舌で転がす。
「んっ、ふ、…やぁ…っ」
繰り返し訪れる未知の感覚に、どうしても声を抑えきれず、噛んだままくぐもった喘ぎが漏れた。
その声であきらが小袖を噛んでいることに気付いた龍彦は、少しおもしろくなさそうな表情を浮かべる。あきらの頬に手をそえて、口元から着物を引き離し、唇を奪う。
「あきら」
「あ…、たつ、ひこさ…、んっ!」
甘く食むように胸の蕾を愛撫されて、びくんっと身体に痺れが走る。きり、と首から背中にうつった細い腕に力が入って、龍彦の背中に小さな爪痕を残した。
(なんか…変…)
ぞくぞくと身体を這いまわる熱に浮かされながら、下腹部に違和感を感じていた。そこは、どんどん熱くなって、なんとも切ない気持をかきたててくる。
その間にも乳房をてのひらで押されて、高く啼きながら、また新たな刺激を受け入れ、そこは熱く疼く。
どうして、と聞きたいのに荒い呼吸が邪魔をして言葉にならない。そうこうしているうちに、龍彦の指がすべり、裾が割れた露わになったふとももを撫であげた。
「あ、の……っ、んっ…龍彦、さん。…そこ、へん…っ」
「何が」
「触っちゃ、やだ…あついの…っ」
涙を浮かべて不安そうに自分を見上げるあきらを宥めるように口づけて、龍彦は笑った。
「おまえ、本当に無垢なのだな」
呆れでも、驚きでもなく、そこには喜色が混じっていた。
「え?」
ふるふると震えるあきらの頬を撫でて、耳たぶを優しく食む。同時に、硬く閉じていた膝が少し緩んだ。その隙を見逃さずに龍彦が足の間に指を滑らす。
かすかな水音が耳朶に触れて、あきらは思わず硬く双眸を閉じた。その耳元で、低く、甘く龍彦が囁く。
「…ここは、こうなるのが普通だ。…いいこだから任せていろ」
頭を撫でられて、目を閉じたままあきらは小さくうなずいた。
龍彦は額に口づけて、再び愛撫を落とし始めた。それと同じくして秘部に這わせた指を、そろそろと動かす。少し動かしているだけなのに、疼いて、熱くて、切なくてたまらなくなる。
あきらは声を押し殺そうと努力したが、あまりの刺激にそれはかなわなかった。
長い指が、花芯に触れた瞬間、いままでにない痺れが走る。尖った芽をくすぐるように動き、たまらなくなって陸に上がった魚のように身体がはねてしまう。
「や…っ、ぁあっ!」
指の愛撫はやまない。段々と激しさを増していく。あきらはただただ翻弄されて、全身を疼かせ、痙攣する。
いやいやと首をふるあきらの顎を固定して、龍彦は今日何度めかわからない口づけを落とした。角度を変えて、何度も、何度も貪るように食んだ。
艶やかな水音がとてもふしだらで、恥ずかしい。その音の源は自分だというのが信じられなくて、何もかもが初めてで、思考がめちゃくちゃになっていく。
ただ、与えられる熱に応えることが、歓びだった。
to be continue.
あっきーかわわ(*´∀`*)
てれてれ(*´∀`*)