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綴れ夢語り

シュアラ編中心サイト。
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4 凍てゆるむ蕾に、春の歌を

2と同時間軸。九重と悠。

++++++

 びゅんっ。

 自分の武器である薙刀の「縷紅」を袈裟掛けに振って、風を切る音が鈍いことに舌打ちをする。
 はらり、と目の前を無傷の落ち葉があざ笑うかのように散った。
 落ちていく木の葉を切る練習。常ならば二つに分断することなど容易いことなのに。
 心を乱れさせるな。何度も何度も武術の師匠に言われた言葉だ。
 わかっている。だが、

「この状況で、落ち着いてられるかっ馬鹿野郎!!」
「ぃやっほーユウちん! はうわーゆー?」
「のわぁあああっ!!!」

 目の前にがばっと人の顔が現れる。樹の枝に人がぶら下がっているのだ。悠が口をぱくぱくさせている間に、その人物はひらりと地面に舞い降りた。
 そして憤慨するかのように腰に手を当てる。小首をかしげた拍子に一つにくくられた藍色の髪がなびいた。

「のわーとはなによう。出張から親友が返ってきたっつーのにぃ」
「こっ…こ、九重?!」
「ただいまーっ! ひさしぶりりーあだっ!」
「ふつーに現れろ阿呆ーっ!!」

 九重の脳天がぼかっと容赦なく叩かれた。結構痛かったようで、九重は頭を抱えたまま、うう、ああ、と呻いている。だがすぐに復活して、ぴょこんっと悠の顔をのぞきこんだ。

「だってユウちん。あたし忍びよ隠密よー? 普通に現れたらおもろくないじゃーん」
「人生面白い面白くないで決めんなっ」

 悠の剣幕におされながらも、九重はぺろっと舌を出して。やなこった~と返す。
 その仕草が癪に障り、悠はもう一度無言で腕を振り上げた。
 

◇ ◇

「なんだ。それで元気なかったの」
「軽いなおい」

 肉まんじゅうにおもいっきりかぶりつきながら、九重はああしあわせーとこぼす。能天気な様子に、悠は本気で頭痛を覚えた。
 
「んぐんぐ。だってさあ~さっき御所で盗み聞きしてきたけど主上なんかたくらんでたよ? のんのんとれんれんもいたなあそうえいば。さしづめエイロネイアあたりと何かやらかす気だろうねえ」
「…盗み聞きって、おまえなあ」
「あ。訂正。主上は天井裏にいるあたしに気づいてておとがめなかったから、公認の盗み聞きー」

 うんうんと勝手に納得して九重は二つ目の肉まんじゅうに手を伸ばす。

「それにあっきーも後宮にいたし。心配すること何もないんじゃない?」
「そうっそこだよっ」

 悠は足をとめて、びっと九重をゆびさす。九重は肉まんじゅうをほうばりながら、人を指さしちゃいけないんだよ~なんていっているが無視だ。

「あの主上がたくらむことに多少のえげつなさや問題はあっても、間違いはない。桜はシュアラに残れるに決まってる」
「まあ断定できないけど、そうなるだろうねえ。主上が本気モードだったし」
「なのに、どうして桜は気に病むんだ? ふさぎこんで、飯もろくに食えなくなってる」

 悠は顔をゆがめて褥の上で日に日にやせ細っていく桜の姿を思い出す。
 ずっと眠ってしまえれば良いのに。なんて縁起でもないことをぼんやりと語る。なだめすかしても、首を横に振るばかり。膳を出しても、すぐ戻す。

「どうして、一緒に戦ってくれないんだ? あたしたちのことが信じられないのか?」
「当たらずも遠からずってとこだね」

 不安や憤りがないまぜになった悠の声を、低くもなく高くもない声が一刀両断する。
 
「お姫は自分のせいで誰かが犠牲になることが一番怖いの。自分よりも、他人の気持ちが大事」

 九重は視線をあげて、都の台地にそびえたつ御所を見据える。都のどこにいても内裏はやすやすと見つけられるが、その奥の後宮は一般市民がお目にかかることは早々ない。
 隣にひっそりとそびえたつのは巫女姫が祭事を執り行う白亜の神殿だ。九重は目を細めて、首の後ろをがりがりとかいた。

「自分は無価値だと思ってる。…あそこまでいくといっそ人間国宝に指定しちゃいたいね。原因は幼少のころからの皇族とか皇族とかからのやらしー嫌がらせだろーけど」

 あ。むかついてきたからあとで屋敷に忍び込んで軽い毒食事に仕込んでこよう。悠は自分を無視して語っている九重をあっけらかんとして見つめるしかなかった。
 九重はそれに気づいて、つまりね。と人差し指を立てた。 

「残りたいって思うことは悪いことだと思ってる。自分の我儘で周りが犠牲になることが耐えられない」
「……そんなの…」
「うん間違ってるね。自分を大切にできないから、他人のことも見えてない。お姫は自分の価値に気付くべきだ」

 どんなにこの国にとって必要か。そして、蒼牙や悠をはじめとして、自分たちが桜をどれだけかけがえの存在だと思っているか。
 慕われていると、必要とされていると、桜は気づかなければならない。そして自分が居たい場所を見つけ出すのだ。

「……」
「それを、お姫自身が気づかなくちゃいけない。簡単にいえば、我儘にならなくちゃいけないってとこかな」

 くるんと指で空中に弧を描く。悠は苦々しい顔つきをした。

「我儘に…あの、桜が…?」
「まあ放っといたらまず無理だろうね」

 悠はぱっと顔を輝かせて、九重の腕をつかんだ。
 いまの桜にもっとも必要な人物ならきっとそれを気付かせてくれるに違いない。

「…っ、蒼牙なら、できるだろ。あき姉がいま蒼牙を護衛に戻すよう説得に行って…」

 悠の期待に満ち溢れる瞳を、九重はにっこりと笑って受け止めた。
 それは肯定の印だと思った悠は安堵しかけるが、降ってきた言葉に耳を疑った。

「いや逆におちびちゃんは邪魔」
「はっ!?」
「おちびちゃんはお姫を分かり過ぎてる。先回りして、お姫を守ろうとするから、駄目」
「なにいってんだよ。桜は蒼牙に会えなくてあんなに…」

 九重はとぼけた顔をしてから、とりあえず頷きを返す。藍色の髪が夕日に融けるようになびいた。

「でもそれはお姫が一度決めたこと。そうだよね? たぶんあっきーの説得は成功する。そうしたらお姫はおちびちゃんから来るって思ってる。だけどソレ、前と変わらないじゃん。ふつーの日常に逆戻りじゃん。それじゃあダメなのよ。アンダースタン?」
「……ちんぷんかんぷん」
 
 悠は本当に分からなかった。一所懸命考えるが、どうも合点がいかない。
 その様子に、九重ははああ~と大層な溜息を吐く。
 そして、悠の額を軽く指弾した。

「…。あ、の、ね。お姫が〝会いたい〟と思ってもそれを自分自身で行動に移してもらわなきゃ意味ないの。

 行動に移して初めてどうしてあんなにも〝会いたい〟と思ったのか、自分がずっと居たい場所はどこだとかわかるわけ。

 そんで戦う覚悟を決めてもらう」
「覚悟?」

 聞き返した悠に、九重はのびをしてから涼しげに応えた。からになった袋をぐしゃぐしゃと畳んで、道端に設置されている屑箱に投げ入れる。
 そして。

「自分のために戦う覚悟」

 ぽかんとしている悠を横目で見て、九重はもう一度御所を見上げる。そうして九重は不敵に笑った。

 +++++++++
 さーどうでるか九重ー(笑)
=次頁=

Comment

ココっち、えらい!

  • ヴァル
  • 2008-12-05 14:07
  • edit
そうだ、桜、ワガママになれ!
自分のために戦うんだ!革命だ!

ありがとうございますっ

  • 日和小春
  • 2008-12-05 21:28
  • edit
九重!やったぞ!ほめられたぞ!!!
さあ桜れっつレボリューション!!革命をおこし、旗を掲げてレッツゴー!(テンション高い)
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プロフィール

HN:
沙羅の語り部
性別:
女性
自己紹介:
沙羅ノ国。一般的には「シュアラ」の呼称がつかわれている。
帝と巫女姫が執政を行うこの国の、雅で切ない物語。名無しの語り部が語るとしよう。

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