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プロフィール
HN:
沙羅の語り部
性別:
女性
自己紹介:
沙羅ノ国。一般的には「シュアラ」の呼称がつかわれている。
帝と巫女姫が執政を行うこの国の、雅で切ない物語。名無しの語り部が語るとしよう。
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 そのさん。
 ちょっと時間さかのぼります。蒼牙視点。

『ほんとうに?』
『嘘はいわないよ。ゆびきりげんまん』
『…! はいっ』

 いつだって、その笑顔は、春を呼ぶ。

 
 
 ――今日、クロキアの使者が来て、桜の降嫁を願い出てきた。

 夕方、顔を真っ青にした新が転がるようにして屋敷にきた。帝の側近として身辺に侍る守人の家系「鴉」である新は宮中のどの職よりも情報網が早く、正確だ。
 謁見の途中、桜は気分を悪くしてその場を辞した。その後主上は色好い返事を出さず、勅使を返したらしい。

 物忌みでなければ、内裏に駆け付けたかった。
 蒼牙は苛立たしげに窓辺によりかかり、空を見上げる。まだ月は中天に位置しているから、朝が来るのはずっと先だ。
 眠るつもりはない。朝一番で殿上して桜に会うつもりだ。
 舌打ちをして、海神家の剣の鞘を握りしめる。こつん、と柄に額をあてた。

「さくら…」

 かすれた声で名を呼ぶ。幼いころからずっと護ってきた少女。護りたいという想いは、いつしか愛しさに変わって。
 最近では桜の手や頬に触れるたびに力が満ち満ちる気さえする。時折見せる笑顔は、春の日差しのように温かだ。
 このままの関係が続き、ずっと傍にいられる。
 根拠のない自信もあった故に、今回のことは青天の霹靂だった。
 もどかしくて仕方がない。


 夜は、こんなにも長かっただろうか。


 心を鎮めようと長く息を吐く。ふと、水の気配をかすかに感じ取った。
 瞬きをして、剣を傍らに置いて、もう一度窓から空を見上げる。
 ちれぢれの雲の狭間から白い蛇体がおどりあがる。月の下にさらされた銀の鱗は白くきらめき、紫苑のたてがみが風にあおられた。

「浅燈」

 そう呼ぶと、白龍は花緑青の瞳を丸くして、蛇体をうねらせて海神の屋敷に急降下し始めた。
 あわや屋敷に突っ込む寸前、白龍は空色の水干をまとった5、6歳の少年に変化する。
 部屋におりたつと、浅燈は荒い呼吸を繰り返しながら、主に走り寄る。

「わかさま…。ひめさまが…」
「…どうした?」

 ひきつった息をそのままに、浅燈は真っ青な顔でつづけた。

「…わかさまの、…ひめさまのごえいの、にんむをとく…って」
「な……っ!」

 さっと顔から血の気が引く。ぎり、と歯ぎしりをして、拳を握り締めた。
 それから蒼牙はすぐに剣をとって、窓辺に駆け寄り、躊躇いもなく飛び降りた。慌てて浅燈も続く。

「わかさまっどこいくんですかっ」
「内裏だ!」
 
 地面に膝をばねにして着地すると、そのまままっすぐ厩に向かう。
 派手な音をたてて厩の扉を開くと、青毛の馬が、ぴくりと耳を動かして蒼牙を見た。蒼牙は駆け寄って柵を外しながら馬に話しかける。

「風早、寝てるとこ悪いけど、内裏に行くぞっ。浅燈は残れ」

 風早は了解したようにヒン、と鳴いた。おとなしく蒼牙に鞍をつけられるのを待っている。
 まろぶように追いついた浅燈は悲鳴交じりの声をあげた。

「わかさまっいまはものいみですよっ」
「知るか。風早っ」

 風早の腹を蹴ると、風早は飛び上るようにして駆けた。後ろで叫ぶ浅燈の声があっというまに遠くなる。風早の駆ける音だけが都の小路に響きわたった。
 途中で帰還する牛車と徒歩の役人の多さに焦りが募ったが、どうにか半時もせずに内裏に続く白神大路に出られた。

◇ ◇


「無理」
「なんで」
「無理っつったら無理なんだよ」
「通せ」
「捕縛するぞ。今のお前に後宮に入る権限はないんだ」

 後宮と本宮の狭間にある渡り殿で、悠と蒼牙は仁王立ちで向かい合っていた。
 身長は悠の方がやや上だが、射殺すような蒼牙の鋭い視線に、知らず背中が冷たくなる。

「どういうことなのか桜から聞きたい」

 悠は組んでいた腕を解いて、髪文字をつけて整えられた髪をぐしゃぐしゃとかき回した。
 ややあって重たそうに口を開く。 

「……クロキアの使者が来たことは知ってるよな?」
「? うん」
「それが理由。わかったな? ほら帰れ」
「ちょっとまった! なんでそれが理由に…」

 ぴく、と悠の眉がつりあがる。

「………お前は天性のまぬけか? この野暮天」

 パキン、と悠が指を鳴らす。すると、背後からぬうっと齢80の女官長がすがたを表した。実質後宮での最高権力者で、あの帝さえもかなわない老女だ。
 幼いころからこの老女に勝ったためしはない。蒼牙はひくっと口を引きつらせる。
 女官長はするすると蒼牙の前に出てくると、凄んだ形相で口を開いた。

「海神の君、お下がりくださいませ」
「おれは…」
「お下がりくださいませ。………それに、一の姫さまはいま月のものの最中。どっちにせよ殿方とはお会いできませぬ」

 そこまで言われてしまえば、男の蒼牙はそれ以上強く出られない。
 蒼牙はぎりっと歯ぎしりをして、黒の外套をひるがえして後宮を後にした。

=次頁=

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