こほこほ。けほ。
「…風邪でも引いたの?」
「ん。そうかもね」
この子には、気づかれてしまう。
◇ ◇ ◇
長椅子に、ふかふかの座布団を枕にして、横たわる。硝子瓶のなかでことことと黄色い珠が震えていた。
寝返りを打って、机の上を見上げる。長年書いて、ためてきた論文は、書き上がるたびにどこかへ放り込んでたから、全部探すのも一苦労。
これからリストつくって、それから、
長年使い続けてきた居室を見渡す。この膨大な量の書物や手帳はどうしよう。
……読まれたらやばいものもあるんだよなあ。
じんわりと熱が上がってきた気がして、九重は重いため息をついて目を閉じる。
桜の祝言はぎりぎり見られるか。
悠は結局うやむやで、晴れ姿は見れないだろう。
「まったくあらたんがいつまでもはっきりしないからなー」
心残りだ。まったくもって気になる。親友の恋路の行方が。
それから、紫水のこと。
ずっと助手を務めあげてきた紫水には、ここをそのまま譲り渡すつもりだ。あの子なら立派に引き継いでくれるだろう。何よりも、彼女の隣に立つ少年がいる。
ひとり遺すことがきがかりだったから、安心した。
こほこほ。けほっ。
なんだろう。今日はやけに咳がとまらない。
これから紫水と凛が来る。聡明なあの子たちのこと、勘づいてしまうにきまっている。
ここ最近は悟られないように振舞うのもきつくなってきた。
ぼんやりと滲んで見える天井。
こうなったことに、後悔はない。胸に残された呪いを返す方法も探したけれど、これと確証のあるものはみつからなかった。
…探さなかった。のほうが言い得て妙かもしれない。
雪路の特別免除で大陸中を旅して、海まで越えていたのは仕事をする傍ら、この瘴気の傷をふさぐ方法を見つけられるようにとの計らいだった。
けれど行く先々で魔道の本をめくりはするものの、仕事が気になってそれがあとまわしになってしまう。
それの繰り返し。やがて調べることもやめてしまった。
ずるいのだろうか。
もっともっと抗わなければならなかったのか。
感づいてる時雨や、朋友に、本当のことを明かさないまま逝くのは、残酷なのだろうか。
そう問うても線無きこと。
乾いた笑いが漏れてしまう。
答えは闇の中。
研究室の扉に近づく足音が聞こえてきて、私は身体を起こした。
fin.
とりあえず末期な九重←いっぱつ書き。
生きろ。
アシタカーッ
きりちゃを泣かせてしまいました