「思わず、」
それをみてしまったのは、ほんの偶然。
医療院で湿布の代わりになる薬草がなくなってしまったから。
急いで標野に行って、薬草を摘んでいるとき。
その草は白の神殿の本殿に近いところに生えているから、いつもよりも奥に足を踏み入れた。
しゃらん。
ふと、飾りが揺れる音が耳朶に触れる。身丈より高い草の中で、はっと音がした方を向く。
(巫女姫…さま…?)
本殿と後宮の境の杜のなかに、長い黒髪が艶々となびくのが見て取れた。誰かと、一緒にいるようだった。
姫さまから少し視線を外すと、学校でも、都でもよくその名を聞く海神の太郎君が姫さまに寄り添うように立っている。
姫さまの白い頬に光る雫が伝う。
ぎゅう、と籠を握りしめて、早くこの場を去らなければと思った。
けれど、何故だろう。身体が動かない。
姫さまは、いつも微笑んでいて、感情を露わにすることなどほとんどない。だから、とても不思議な感覚を持っていた。
浮世離れしている、というか、その場にいるのにそこだけが違う空間に思えるというか…。
もしかしたら、姫さまは月から降りてきた天女さまなのかもしれない、とこっそり思っていた。紅蝶ちゃんや紫水ちゃんに言ったら、笑われちゃったけど、賢くんは、うんそうかもしれないね。と言ってくれた。
だって、あまりにも綺麗で、優しい方だから。
でも、そのひとがいま、泣いている。泣き腫らした顔で若様を見上げて、また涙を零した。かすかに風に乗って悲痛な声が聞こえてくる。
若様は姫さまを引き寄せて、苦笑しながら優しく涙をぬぐった。
お二人の視線が合って、それから…。
がばっと視線をそらして、普段の自分では考えられないほどの速さでその場を離れた。もちろん音をたてないように細心の注意をはらいながら。
標野の中央あたりまで来て息を整えて、そのまま真っ直ぐ医療院に駆ける。
(ばかばかわたしのばかーっ)
どうしようどうしよう。…はっきり、したというのは見てないけれど…、ってそうじゃなくて!!
姫さまと若様のお二人だけの時間を誰かに見られていたなんて厭われるに違いないのに。そう思っていたのに。
お二人のお姿に見とれてしまって、姫さまが見せる表情に、くぎづけになってしまって。
「……姫さまは天女さまじゃないわ…」
ぜえ、ぜえと息を切らして医療院の中庭にある噴水に腰を下ろす。
(姫さまも、普通の、女の子なんだ…)
まだ火照る頬をぺちぺち叩いて、はあ~と深く息をつく。
それにしても。
「姫さま、可愛かったなあ…」
あんなお顔もされるんだ。と思うとなんだかくすぐったくなってしまった。思わず、見いってしまうほどに。
「月~っ、薬草はーっ?」
「あ、はーいっいままいりますっ」
fin.
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ちま夫婦何してたんでしょうね(笑)気が向いたらちま夫婦視点書きたいです。
そんなとこまでマネしなくていいぞ?
マネ(笑)
Re:そんなとこまでマネしなくていいぞ?
Re:マネ(笑)