銀の光を放ち、出でたる乙女。
それすなわち〝巫女姫〟である。
====================
早朝、帝の寝所の戸を叩く音が響いた。ふと文台から目をあげれば空が白みかけている。
(桜の出発は、今日か…)
船で三月をこえる旅だ。陸路もあれば山越えもある。護衛には腕の並ぶものを選んだ。
だから不安などないと雪路は自分に言い聞かせながらも、わずらわしいほど高い身分に舌打ちせずにはいられない。
寝不足とそのようなもの思いから、雪路は入ってきた人物を相当不機嫌な顔で出迎えた。
◇ ◇
内裏から山と積もる食糧や衣類の荷が次々に運び出されていく。途切れることなくその列はどこまでも続いた。目的地は二四三船場だ。
それから商人に大工、医師が二四三船場へ続々と集まっていた。船場の離宮で桜は焼き打ちされた村に背任される役人と少々諍いを起こしていた。
「姫さまはあくまで象徴ですから、慈善仕事は采女にまかせておけばいいのですよ」
「だからこそ、わたくしがやるんです。それぞれのむらのようすをくわしくおしえてください」
幼子をなだめるように言葉を重ねる役人も、決して折れない巫女姫の射るような琥珀の瞳にたじろいできた。
「しかし…」
「わたしは巫女姫です。なまえだけのそんざいにはなりたくありません」
かたくなな様子に、さてどうしようかと役人たちは腕を組んで書類の山を見下ろした。後ろに控えている護衛のものたちはこうなった桜を止める術はないと言わんばかりに好き勝手なことをしている。七歳の少女に、はたして理解できるかどうか。
そのとき、にわかに門が騒がしくなる。
兵の一人が部屋に入り、膝をついた。
「巫女姫さまにお知らせいたします。春宮殿下、白の神殿の神官長のトヨ殿が傍付きとして到着いたしました」
「…え…?」
「春宮!」
入ってきた少年の姿に、役人がすっとんきょんな声をもらした。五瑛の面々も同じである。
旅の略装に着替えた雪矢はにこりと笑った。
「主上にお許しを頂いた。遠征軍の総督として巫女姫につくから」
「おにいちゃま…」
突然の兄の来訪に、桜は琥珀の瞳をめいっぱい大きくしてから、愛らしい顔をくしゅ、とゆがめた。
伸ばされた腕にだきついて、小さく嗚咽を漏らしながらなく。いくら決心したとはいえ、親しい護衛がついてるとはいえ、やはり兄たちと離れることが心細くて仕方なかったのだ。
「と…じゃなくて雪(せつ)兄、よく内裏のやつら許してくれたな」
新が式神の黒鴉、兄姫(えひめ)と弟姫(おとひめ)を両肩にのせながら訊いた。
「うーん。半分は押し切ってきたようなものだから。兄上が最後は協力してくれたよ。神官長としていくからって大丈夫だろうって。
橘も協力してくれて、やっとお許しを頂いたんだ。桜、僕も一緒に行くからね。怖いことなんて何もないよ」
ぎゅうう、としがみつく妹をあやしながら雪矢はほっと息をついた。
今朝がた、兄に自分も行きたいという旨を伝えたとき、雪路は常になくぽかんとしていた。そうして、本当に安堵した顔で見送ってくれたのだ。
雪矢はいまだ膝をついている役人に向かって笑顔を向けた。
「さあ、村の様子を教えてくれ。桜も一緒に聴こう」
「はっ」
役人達は立ち上がり、地図と膨大な書類を広げ、雪矢と桜、そしてトヨに説明を始めた。
難しいところは、桜が一所懸命理解しようと奮闘するのをなだめ、トヨが言葉を噛み砕いて説明した。
やがて、出港の時刻がやってくる。
◇ ◇ ◇
「ぅおえぇえええ…」
「おい新、吐くならかんぱんに出ろよ」
「ひどい…ひどすぎる…悠…」
「はやく薬のみなってばあらたん。楽になるよ」
「俺は薬きらいだーっ」
椅子にもたれかかって、青い顔でじたばたと暴れる新を蒼牙が呆れた眼で見た。
「おまえ、一応ごえいで来てるんだぞ。闘うときに船酔いじゃ………馬鹿じゃん」
「ねえ色々言おうとしたけど最後にその一言でまとめんのやめてくんねーかな蒼牙。マジで哀しくなってくる…」
九重はふう。と息をついて、長椅子で寝ころびながらぶあつい魔道書を読んでいる紅の魔女に声をかけた。
「ルンルンーおねがいー」
「ええ? ったく面倒くさいわね…。我望む、来たれりは道化を縛る生命の鎖、縛れ、ナバールチェイル」
瑠那の呪文が完成すると、新の足元から光の鎖が伸びて一瞬のうちに体に絡みついた。
「ぎえっ!?」
「あんま長時間は無理だから。はやく下剤でも青酸カリでものませちゃって」
「船酔い止めね。よっしゃ、悠ちん」
「ほいきた」
悠が用意していた船酔いにきく草をそのまま新にほうりこむ。普通はすりつぶして白湯にひたすけれど新なら大丈夫だと大変理不尽な理屈で詰め込む。
「ふがほごっ」
「はいお水を飲みましょー」
その後。白目を向いて床に倒れたまま動かなくなった親友を、蒼牙はせめて憐憫の視線を送った。
fin.
************************************
次頁では全快だYO新!よかったね☆(鬼)
PR