「……はぁああああ」
「人の顔見ながらため息つくのやめてくんない。橘」
即席で作ったくじ箱を生気のない瞳で見つめる少年を足蹴りにしたくなる衝動を抱えながらあきらは言った。
「なんでてめえとペアなんだよ…。どうせなら中村さんとかおしとやかなひとがよかげふっ」
「…屋上いって睡眠薬一杯飲んで飛び降りろ山猿が」
鳩尾に拳一発。どんな状況でも東海家の拳と日下家の鳩尾は相思相愛である。
「こえええわああ雪路ーっなんでなんで俺はいやだあああーっ」
「はいはい。つまってるから後ろに行って。…これで最後か」
「みんなーペアは全員居るー?」
クラスメートは全部で偶数だから、誰かが余ることはない。はーいと浮足立った返事が返ってくる。
あきらはげんなりした。よりにもよって橘と。橘と。雪路に少々行きすぎた友情をもつ日下家長子は苦手だ。もう存在が無理だ。
「時間差出発で、10分毎ね。聖堂に置いてある自分たちの名札とってきてこっちに戻ってくる。脅かし役はとくにいない。大丈夫かな?」
「だいじょうぶでーすっ」
雪路大好き隊(クラスの女子の半数)が元気に応える。雪路は麗しい微笑みで持ってそれにこたえた。途端に女子の黄色い声が旧校舎の壁に反響する。はいはい青春真っ盛りですねこのやろー。
ふと雪路と話している女子生徒が目に入った。ん?顔が暗くてよく見えない。誰だっけ?
「クラスいいーん。もう出発していいー?」
「あ、はーい。気を付けてー」
第一組がスタート。そのまま順調に次々とクラスメートが旧校舎から森の闇に消えていく。
一番最後のあきらはぼおっと木によりかかって、帰ってきた生徒チェックをしていた。
そんなあきらの肩を親友のひかりが叩く。顔をあげると、顔を真っ青にしたひかりが自分を見ていた。
「…どうかしたの?」
「ねえ、あきら……、今日、及川さんが来てないみたいなの…」
「え?」
「いま、携帯に連絡あったのよ。それで、それで…」
ひかりの顔色がどんどん蒼くなっていく。かたかたと身体を震わせて、ひかりはごくりと唾を飲んだ。
「……どうして、ペアに〝あまり〟がでなかったの……?」
あきらは眉をひそめた。そうだ。一人欠けていたならペア組みのときにだれかがかならず余ることになる。
なのに、どうして。
(…まあ、珍しいことじゃないけどね…)
たぶん、幽霊や妖の類がおもしろがって参加してるんだろう。人間に害をなさないなら、別に何もしないが…。
さてどうしようかと悩んでいるあきらの耳に慌ただしく走ってくる足音が聞こえてくる。
「きら、あきらあきらあきらあきらーーーーっ」
「んぉっちょ、どうした〝神代雪路大好き隊局長宮里〟!!」
毎回毎回、下を噛みそうになる。だが、本人がこの呼び名以外でなければ反応しないというのだから厄介だ。
宮里は涙を浮かべてあきらの肩を揺さぶった。その後ろには涙にくれている女子生徒がひーふーみー。まあ若干十名いらっしゃる。
「雪路さまが雪路さまが聖堂でどこぞの女子と抱き合ってたのよー!!!!!」
「はあ…」
「出席簿見せて!! 雪路さまのペアは誰?! 体育館裏秘密の会にまねかなきゃ我慢ならないわっ」
髪を振り乱して、錯乱している宮里をあやしながら、あきらは嘆息する。
「雪路のぺああ?」
まったくどこのどいつだ。みずから毒におかされそうにしているやつは。ため息をふかあくつきたくなるのをこらえながらペアのリストをめくる。
神代雪路神代雪路…と。あった。
その横に書いてあるはずの女子の名前に目を映す。だが、そこにはなにも書かれていなかった。
(あー………)
内心しまったと思った。雪路は破邪の力もあるし、退魔の術は大の大人でも二の足を踏むほどのものを獲得している。
けれど、身体が少し弱い、とのことで霊や妖に直に触れたり触れられたりすると意志に反して邪気を吸い取ってしまうのだ。
あの馬鹿雪路。
「…めんどくさ…」
「えっなに?! 誰っ!」
「あー、橘、よろしく」
「はっ?!」
準備も何もしてないけど、たぶん大丈夫だろう。あきらは術で簡単に夜目がきくようにして、地を蹴った。