よいお天気です。あついくらい(笑)もう今年も終わっちゃいますねえ…。クリスマスは友人とパーティです。彼氏いる子は当然ながらデートです。彼氏いない女子大生がてんやわんやの大騒ぎ。時折むなしくなっても「いいの、楽しいからっ」と持ち直し、カラオケで大熱唱。帰ってから、来年こそは…と胸に誓う。その繰り返し(笑)
では6話です。
「ほんまおおきに」
赤子を抱えた女性が深々と頭を下げる。隣で夫の男性もほっかむりをとって頭を下げる。
今日は都からほどちかい二四三(ふしみ)船場で妖怪退治を行った。大ねずみが民家に巣食って、食べ物を食い荒らしたり着物をめちゃくちゃにしたりと悪行を重ねていた。身体の大きさの割に下級妖怪の類に入るため、少し痛めつけただけでささっと山へ帰って行った。
時雨は人好きのする笑顔を浮かべた。
「いいえ。お役に立ててよかったです」
「…ほんまにもうでない? あんちゃん」
時雨の袂を引っ張って、小さな男の子がおびえた様子で問う。時雨はふところを探って、小さく畳んだ紙の包みを差し出した。
「この灰塩が入っている袋は念を入れてあります。魔よけになるので、持っていてくださいね」
「っありがとうあんちゃん」
それでは、と時雨は民家をあとにした。玄関の戸を閉め、門塀によりかかっている蒼牙と新に声をかける。
「終わりました。さ、次に行きましょうか」
「………気に入らねえな」
旅装束の新がぽつりとつぶやく。その横にいる蒼牙は眉間にくっきりしわをきざんで、時雨をにらんだ。
「なんで雑魚妖怪退治を俺らがやってんの? 上級ならわかるけど。退魔寮はなにやってんだ」
「退魔寮はいま手いっぱいなんですよ。暦作りに、星読み。クロキアとまた戦になるんじゃないかって不安になってる都を混乱させないために行脚したりとか」
黒目がちの瞳をぱちぱちと動かして、時雨はさらさらと言ってのけた。
「……へえ」
「どーも俺らを都から遠ざけて、その監視を時雨がやってるみたいにしか思えねえんだけど」
「まさか。勘ぐりすぎですよ。だって夕方には帰れるし、御所にだって毎日上がってるじゃないですか。御二人は青海波の舞人に選ばれているんだから」
にこり。と時雨は爽やかな笑顔を浮かべる。自分たちよりも年下だが、さすが隠密。ちょっとのことじゃ揺らがない。ましてや九重直属の部下だ。
蒼牙は深く息をついた。先日は散々だった。姉が一度帰ってきて桜の護衛の任の復帰を伝えてきて、姉弟で内裏にあがったら、主上が待ち構えていて、その話は無かったことにすると宣下されたのだ。
さしもの姉も怒髪天をついた。しかしそれさえものらりくらりと主上はかわして、先代の帝である孝徳院の宮で披露する青海波の舞人に蒼牙が決まったから、いそがしくなるだろうしちょうどいい。と言ってのけたのだ。
ちょうど九重が出張から帰ってきた時期が重なっているのは決して偶然じゃないだろう。
一瞬強行突破も考えたが、もう自分は童ではない。シュアラの重臣のひとりだ。帝の勅命は断れない。
くすぶる思いをおさえつけて、頭を垂れることしかできなかった。
◇ ◇ ◇
ぼんやりと瞼をあけると、柔らかい藍色の瞳と目が合った。
「お姫? 起きた?」
魚の腹のように白くなった肌をなでて、九重はにっこりと笑う。
「……九重? 帰ってきてたの?」
「うん。ただいまー。くりすます以来だね。びっくりしたよー。帰ってきてたらお姫寝込んでるんだもん」
そのとき、悠が几帳の向こうからほこほこと湯気をたてる膳を持ってくる。
「桜、食べられれそうか?」
「……うん…」
力なくうなずいて、九重に手を貸してもらって身を起こす。背中に枕をおいて、それにもたれるようにした。
小ぶりのお椀に白粥がよそってあって、それにゆかりが散らしてある。小松菜も入っていた。細かく刻んで柔らかく煮込んであるようだ。
もう幾日も水か重湯を口に含んでいただけだから、素直にお腹がすいている。だが、その前に。
「あの……」
「んー?」
「…護衛の…こと…なんだけど」
「ああ、おちびちゃんね、いま膨大な仕事預かってて、すっごい忙しいみたいだからこっちまで手が回らないみたいなの。だから護衛復帰は保留」
匙でおかゆをすくって、ふー、と悠がさましているのを横目で見ながら九重が言った。
「え…そう…なんだ…」
「ま、その他いろいろあるんだけど…」
「なに?」
桜が不安そうな顔をする。九重は一泊置いてからにっこり笑って悠からお椀と匙をひったくった。
「それは、これ全部食べて、薬湯飲んでからね。はいあーん」
「…」
「食べなきゃ動けないよ? いまお姫自分で匙ももてないでしょ。何かするには、食べなきゃ」
桜は九重の言葉に、瞬きをしてゆっくりと頷いた。よしよし、と九重が誉める。
一刻はかかっただろうか。九重と悠が交代しながら桜におかゆをたべさせて、空にした。
悠は少し涙を浮かべて、嬉しそうに笑う。
「…よかった…。はじめて全部食べてくれたな」
その反応に、桜はびっくりした顔を浮かべた。ことん、と首をかしげる。
「悠ちんねえ、お姫が残した膳見て泣いてたんだってー可愛いよねえ」
「ばっ、九重っ。えーとごほんごほん。桜、だいじょうぶか? 吐き気は?」
悠は泣き笑いで問いかける。桜の胸にじんわりと後悔の想いが染みわたる。意識が朦朧としていたから、はっきりとした記憶は残ってない。だが、悠はひとりでずっと桜の傍に居てくれた。食べても、戻すからと膳をうけつけないときは、工夫を凝らして柔らかいものをつくってきてくれた。夜に熱に浮かされているときも枕もとにはずっと悠がいて、眼が覚めるたびに根気よくなぐさめてくれた。
必死に介護する悠に、自分ばかり悲しみ嘆いて、そればかりか縁起でもないことを幾度も口走ってしまった。
自分のことしか、考えてなかった。
「ゆう…」
「ん?」
「ごめんね…? ありがとう。とっても、美味しい」
ほんとうに。ほんとうにおいしい。うれしい。
涙がこぼれそうになるのを隠すために微笑んでそう告げると、悠は目を見開いた。
「ほんとか? よかった!」
「やったねえ悠ちん」
「おうっ」
「さあお次は薬湯た~いむ」
ふっふっふとあくどい笑みを浮かべて、九重は平べったい御椀になみなみとそそがれた薬湯を桜に差し出した。
「典薬寮のじじさまたちが改良に改良を重ねたお姫のためのスペシャル☆薬湯だよん」
「すぐには効かないけど、根気よく飲めば滋養もとれて体力もついてくるって言ってたから。苦いけど我慢しろな」
桜はこっくりと頷く。そして一口薬湯を口にして、少し顔をゆがめる。苦いような酸っぱいような、とにかくすごい味がする。
一度口を放して、けほけほとむせる。悠が水差しから湯のみに水を注いだ。差し出される水を大丈夫だからと断って、ぐいっとあおる。
喉が灼ける感覚に目の前がくらくらしたが、起きた時よりもなんだか視界がはっきりしてるみたいだ。
空になったお椀をとって、九重が几帳の向こう、御簾を隔てた簀に声をかけた。
「イヨ、キヨ」
「はいこのえさまっ」
小さな童女ふたりが声をそろえて返事をする。ぱたぱたと入ってきた二人に、九重が空のお椀を見せる。
二人はあっと声をあげて顔を見合わせる。
「キヨ、ひめさまがじじさまたちのおやくとう、のんだっ」
「イヨ、ひめさまがじじさまたちのにがいおくすり、のんだっ」
全部飲んだ全部飲んだときゃっきゃっと歌い始める童女たちの頭をなでて、悠が笑った。
「爺さまたちのとこへおつかいいってくれるか?」
「はいっイヨがじじさまにひめさまがおきておぜんをぜんぶからにしたって」
「はいっキヨがぜんのあとにじじさまたちのおやくとうをのんだって」
「よし、いってらっしゃーい」
2人は手をつないで嬉しそうに駆けて行った。桜があぜんとしてると、悠と九重が顔を見合せて笑う。
「うれしいんだよ」
「あのふたり、爺様たちの薬が苦いから姫様がよくならないなんて言ってたんだぞ?」
くすぐったい気持になって桜は困ったように笑う。
「まさか…お爺様たちのお薬はとてもよく効くのよ。私が飲んでなかったから…」
そこまでいって、ハッと口をつぐむ。幼少のころから世話になっている薬師の爺たちはどんなに心配しただろう。あの二人がいったことばをう飲みにしていたら大変だ。
「あとで文でも書いてやれよ。良薬口に苦しってな」
「もうちょっと甘くしろーとか」
あははっと九重と悠が笑い合う。この宮がこんなににぎやかになったのは、いつぐらいぶりだろう。
(元気になりたい…)
こんなに心配をかけているのにもかかわらず、心は痛むどころか温かだ。
桜は目覚められたことを、ここに生きてることを心から感謝した。
fin.
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