浅燈のお話。
時間軸は昨日のチャットの後ぐらいです。シャルに会いに行きます。
シャル、いま、あいにいくよ!!(笑)
* * * * * *
霞がかった視界の中で、小さな女の子が目を吊り上げて自分を指さした。
「やい、泣き虫っ子」
「えぐっ」
怒られるのが怖くて、必死にリインにしがみつく。けれど、リインは優しく浅燈を抱き上げて、シャルのちょっと上くらいまで浅燈の身体を下げて目線を合わせた。
「いつまでも甘えてないでこっちに下りてくるのです。強い子になれないのですよ。大きくなってもシャルみたいに主様を守れないのですよ」
そういって胸を張るシャルは、自分とそうかわらない姿かたちなのに、とても強く見えて、浅燈はぽかんとした。
「自分の足で立ちやがるのですよ。人間はまんおう(万能)ではないのです。それを補うのが主に仕える竜族のしめいなのです」
難しい単語に頭がついていかなくて、浅燈は顔をくしゃくしゃにした。それをシャルもわかったのか、ため息をついて口火を切る。
「お前が弱いままだったら小さい方の無愛想は、お前から手を離せなくて大変なことになるかもしれないのです」
黒い瞳が、浅燈の涙で揺れた瞳を鋭く射抜く。
「お前は水っ子を困らせたいのですか」
困らせたい?大好きな主を?このまま泣き虫だったら、主に大変な起きるかもしれない。
浅燈は必死に首を振った。
「やっ! ぼく、わかしゃまのいちばんのしきがみになるんだもんっ」
「だったらお前が強くなって戦場の矢と悪意から水っ子を守ってやるのです。いつまでもでかしっぽに甘えて泣いてるんじゃないのです」
そこでいったん息をつめ、シャルは胸を張って凛とした声で言い放った。
「お前の時間は長いかもしれませんが、人間の時間は短いのです。恩返しの時間は少ないのです。甘えるな、なのです」
◇ ◇ ◇
唐突に意識が覚醒して、浅燈はあやうくよりかかっていた柱からずり落ちるところだった。どうやら柱に背を預けたまま眠ってしまったらしい。
小さく息をついて、御簾の向こうにある几帳を見つめる。澪はイドラから帰ってきてすぐに気を失うように眠ってしまった。
ちょうど屋敷に居た蒼牙は娘の様子を見て、眉間のしわを深くしたので、何か悪いものにでも取り憑かれたのかと肝を冷やした。しかしそうではないらしい。術をほどこされて、それで眠っているだけだそうだ。
『忘却術、だな。ナレヤあたりがかけたんだろ』
そういって主は何があったのかは聞いてこなかった。その隣で桜が浅燈を安心させるように微笑んだ。
『起きるまでわたしがついているから。浅燈は休んでいらっしゃい』
やんわりと澪としばらく会うなと言われたような気がして、浅燈は頷くしかなかった。
―――― 結局、隠形して、そっと澪の様子をうかがってしまっているが。
澪は赤子のころからそばに付き、まもっていた大事な少女だ。蒼牙に厳命されたわけでもないがよっぽどのことがないかぎり彼女の傍にずっといた。
ふいに黒太子に言われた言葉を思い出し、浅燈は少しばかり頬を染めた。彼にとっては青天の霹靂である。
てっきり、いとこの雪那か、馴染みの彰人に想いを寄せているのかとばかり思っていたからなおさらである。
「いや、でも姫本人からきいたわけじゃないし…」
ぶんぶんと首をふる。口ではそういっていても頭の中身は先ほど泣きながら必死にシャルとナレヤに懇願する澪の姿だった。
あんなに痛々しい姿は見たことがなかったので、胸がざわついた。桐花にすがりついて泣きじゃくる澪に、どうしていいか頭が真っ白になるほど動揺した。レインに叱咤されても返す言葉が出てこなかった。
そのあと、シャルがなにかいっていたが、それも耳に入ってこなかった。
ただ、おもったのは、澪を泣かせたままにしたくないということだけ。他のことはどうでもよかった。
あんなに乱暴に姫を扱ったのは初めてだ。抱き上げるときだって一言了承を得てからすることが当り前だったのに。頭に血が昇ってそこまでいきつかなかった。
華奢な身体を震わせて涙を流す姿がいまにも風にさらわれそうで支える腕に力がこもった。
唐突に心の靄が消え去った感覚をおぼえる。
『これが今の私の姿、私の役目、そして私が選んだ道。幼き理想を主に見ていた子竜の影はもうないのですよ。目をお覚ましなさい』
浅燈は小さく笑った。いつか追いついて、おいこしてやるとおもっていた少女の姿は近くはなったものの、そのぶん大きくなって。
「………シャルには、かなわないな…」
それはこれからも、きっと。おそらくシャルは浅燈より浅燈の想いを先に気づいたのだ。もしかしたら、言いたくないことも言わせたかもしれない。
すくっと立ちあがって、たんっと地を蹴った。彼の身体を銀の鱗がとりまく。淡雪のように鱗が消え去ると、白い竜が三日月の空めがけて飛んでいく。
都はすぐに遠のいて、山脈を抜けると、珠の海が見えてきた。水の中でうたう真珠の声が夜空にちりばめられている。
ふいに、湖の淵でこちらを真っ直ぐ見上げている黒髪の女性を見つけた。浅燈は目を見開いて、そこへ降下する。
人身を取って女性の前に立つ。すると女性は艶やかな黒髪をかきあげてにやっと笑った。
「飛び方だけはいっちょまえになったですね。アサヒ」
「…ありがとうシャル。どうしてこんなとこに…」
きょとんとしながら問うと、シャルは大袈裟に溜息を吐きながら肩をすくめた。
「シャルをなめるな、なのです。お前がまた会おうと言い残しやがったあと、単純なお前なら今宵のうちに来るだろうとふんでここでまっていたのですよ」
「そっか…。やっぱりシャルはすごいなあ」
感嘆の声を上げると、シャルはまた深く深くため息をついた。浅燈のテンポはどちらかというと主より桜に近いかもしれない。
「……お前とほんわか世間話するつもりできたんじゃないですよ。さっさと用件言いやがれ、なのです」
「うん。あのね。僕、シャルのこと大好きだよ」
花緑青の瞳を細めて、さらりと浅燈は言ってのけた。
「………は…?」
ぽかんとするシャルは無視して、にっこり笑って浅燈は話を続ける。
「君のおかげで強くなれたし、自分で立ち上がることもできた。とても感謝してる。ありがとう」
「アサヒ、あのですね…」
「いいから話聞いてて。終わってない」
すうっと息を吸って、吐く。もしかしたらこれはちょっと嘘になるかもしれない。でも、きっとこれでいいんだ。
「ずっと会いたいと思ってた。…これが恋愛感情なのかなともおもった。だけどさ、違ったんだね」
螺鈿の空を見上げて、星の瞬きを瞳で追う。それからゆっくりとシャルに視線を戻した。
「シャルは僕の憧れだよ。尊敬してる。でも、愛おしいとおもう対象じゃないんだ」
シャルの顔が少し複雑そうな顔になる。浅燈はからりと笑った。
「ごめんね」
「ちょっと待てなのです。なんでシャルがふられるがわみたいなことになってるのですか。こっちはお前のことちんくしゃとしか思ってないですよ」
「ひどいなあ」
黒髪の女性はふうと息をついて、満足そうに胸を張った。
「まったく。世話のかかるやつなのです。それじゃ、シャルは帰るのです。お前と違って暇じゃないのですからね」
「あ、シャルちょっと待って」
とん、と軽く地を蹴ってふわりと浮かぶ。そして目を丸くしてるシャルの額に口づけを一つ落とした。
「な…」
「ありがとう。シャライヴ」
そのまま浅燈は銀の鱗に包まれて天高く飛翔した。月光に白銀が輝く。夜空にきらめくそれは、天の浮橋のようだった。
fin.
昨日のチャットの後、夢に浅燈が出てきてあ、これは書かなあかんなとおもいたち、勢いでがーっと書きました。私なりの、シャルとアサヒを書かせていただきました。楽しかったです。
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