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プロフィール
HN:
沙羅の語り部
性別:
女性
自己紹介:
沙羅ノ国。一般的には「シュアラ」の呼称がつかわれている。
帝と巫女姫が執政を行うこの国の、雅で切ない物語。名無しの語り部が語るとしよう。
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 梅が枝の花をばよそにあくがれて
 風こそかをれ春の夕闇

(梅は花を遠く置き去りにして枝からさまよい出、風ばかりが香っている、春の夕闇よ)

 式子内親王の御歌

 愛馬の白雪の蹄に綿を巻き、駆ける音が極力少なくなるようにした。白雪は特別な馬で、内裏の裏にそびえたつ白神山に寝床を作っている。桜が呼んだときだけ姿を現すのだ。
 寒さに小さく震える主に頬をよせ、白雪はひん、と小さく鳴いた。桜は白雪の首にしがみつく。
 それから、松明の光があちらこちらと移動している内裏をみやった。神域の暗闇にまぎれた桜の姿は見えない。
 
 してはならないことを、してしまった。
 巫女姫として、皇女として。もしかしたら国を裏切る行為につながるかもしれない。
 だけど、それでも。

「…どうしても、会いたいの…」

 この身も心も、あの人以外に渡したくない。
 それが答えだった。

 桜は地を蹴って白雪にまたがり、手綱をとった。山沿いに走って、右京に出れば人気も少ない。絹布を深くかぶって、とん、と白雪の腹を蹴る。
 遠くで、吉野が自分を呼んでいる声を聞いた気がした。
 振り切るように駆歩でぬかるんだ山道を駆けおりる。
 一刻はかかっただろうか。険しい山道からやっと整備された都のはずれにつき、ひとまず桜は息をついた。だが、不意に白雪が馬首を都とは違う方向に向ける。

「っきゃ、…白雪? 蒼牙くんの家はこっち…」

 ブルル、と嘶いて白雪は鼻先で東をさした。この先にあるのは、紀不祢山。山中には神社があり、山頂を越えると……。

「……卯の原……」
 春には卯の香が咲きみだれる野原。折々に蒼牙と二人で訪れた場所だ。桜は白雪の鬣をなでる。
「あそこに、いるの…?」
 頷くように白雪は頭を振った。桜は頷いて、紀不祢を目指し、白雪の脇腹を踵で蹴った。

◇ ◇
 

「わかさま、本当に今日はお屋敷にお帰りにならないのですか?」
 空からちらちらと雪が降ってくる。神身である身体でも寒さが感じられるのだ。蒼牙はもっと寒いはずである。
 だが、自分の主は花も咲いてない野に立って、ぼんやりとしている。
「ああ。ここらへんは海神の土地だし、別荘もあるだろ」
「ええっあそこ、冬はつかわないからしようにんいませんよ?」
「別に。夜具があれば十分」
 浅燈は頭を抱えたくなった。もう16になったというのに、高位の若君という意識がまったくといっていいほどない。
 せめて、寝殿だけは整えて、火をくべておかなければ。
「だめですっぼくがいってととのえてきますっ! きがすんだらかえってきてくださいねっ」
「ん。悪いな」
 浅燈はため息をついて、地を蹴り飛翔した。瞬く間に竜の姿となって、あっというまに白い線となってしまった。
 蒼牙は息をついて、雪の上に腰をおろす。
 そのとき、傍についてる風早が落ち着かない様子で蹄で地をかいた。
「風早?」
 風早が見つめてる先をおってみる。直後、森から白い馬が現れたのが遠目だが確かめられた。白い布で顔を隠した人間をのせている。

(……まさか…)

 蒼牙は立ち上がる。馬上の人物が顔をあげた。
 風がふきこぼれて、絹布がつよくたなびいて、その顔をあらわにする。

「…さく、ら……?」

 桜は立っている人物が蒼牙だとわかると、白雪から降りて、野を駆けた。ほとんど飛び込むようにして抱きついてきた少女を、蒼牙は強く抱きとめる。
 桜は懐かしい香りに包まれて、思わず泣いてしまいそうになるのを精一杯こらえた。
 伝えなければならないことがある。

「……蒼牙くん、に、あい、たくて…っ、ちゃんと……触れたくて…っ、わたし…わたし…っ」
 荒い呼吸を整えるのも忘れて、言葉を紡ぐ。
「蒼牙くんのこと、…好き、だから、…蒼牙くんのずっと、そばにいたい…っ」
 そこで蒼牙から身体をはなして、大事にしまっていた指輪を取り出す。蒼牙は目を見開いた。
「蒼牙くんと、離れたくな…っんっ…っ」
 最後まで言い終わらないうちに蒼牙が桜のちいさな唇をふさぐ。桜の眼のふちにたまっていた涙がぱっと夜空に散った。
 身体が冷えていたから、最初はぎこちない口づけとなったが、しばらくすると、優しく激しい口づけへと変わっていく。
 角度を変えながら、何度も何度も口付けを交わした。桜も一所懸命にそれに応えた。
 何もかも考えられなくなるような蒼牙との口付けに、彼の温もりに桜の中は満たされていく。

 そっと唇が離れたとき、桜は足に全く力が入らないことに気づいた。ずるりと座り込んでしまいそうになる細い体を蒼牙が容易く抱きかかえる。桜の肩口に顔を押し付けて、蒼牙は掠れた声音で桜を呼んだ。
「…遅いんだよ。馬鹿」
「…なっば、ばかってどういうこと…」
「……ありがとう」
 嬉しいよ、と結んで蒼牙は桜を抱きかかえたまま雪が降り積もった地面にそっと彼女を押し倒す。
 ひんやりとした雪のつめたさに、火照った身体が小さく震えた。
 そして再び、蒼牙の唇が桜のそれに重なる。桜は頭の芯さえも溶けてしまいそうな感覚に、少し戸惑った。そして、それとはまた別の熱が、体に走ったことも。
 軽く音を立てて唇を離した後、蒼牙は桜の耳元で小さく囁いた。
「…もう、誰にも渡さない。俺の妻になって欲しい」
「っ、」
 桜は頬を染めて、口元を覆った。ほたほたと涙が頬を伝う。蒼牙はここではじめて戸惑った表情を浮かべた。
「……ごめん。怖がらせた? べつに、いますぐってわけじゃな…」
 ふわ、と蒼牙の両頬にすべらかな指が触れる。桜は蒼牙をまっすぐ見上げて、花がほころぶように微笑んだ。うれしい、と吐息のような声が蒼牙に届く。
 桜は少し身を起して、蒼牙の耳元でなにかを囁いた。かすかなささやきは、降り積もっていく雪に消えそうなほど淡い。

 蒼牙は強く、桜を抱き寄せた。

◇ ◇ ◇


 空が白み始めたころ、桜の宮の築地塀の扉が静かに開いた。朝靄の中、桜は自分を抱えている青年を見上げる。
「…乳母たちに…とても心配をかけてしまったの…なんて、いったら…」
「…桜、あっち」
 促されて首をめぐらすと、宮の壁に背中をあずけてたっている二人の少女の姿があった。
「…悠、九重…?」
 しーっと九重が指を立てる。そして安堵した表情を浮かべている悠に二人を任せ、宮の中に入って行った。
 ばたばたとあわただしく裾を翻す音が聞こえてくる。現れた乳母が一晩でげっそりとやせてしまった様子に、桜は胸が痛んだ。
 素直に謝ろう、とした桜の口元を悠がひとさしゆびでとめる。そして九重に目くばせをした。
「吉野さま、海神の君がみごと鬼を退治て姫様をとりもどしてくださいました」
「ああ宮様…さぞおつらかったでしょうに…どこにも怪我はありませんか?」
「あ…あの…ない…とおもいます…」
 無意識にはおっている絹布を握りしめて、桜はあいまいに笑った。
「姫さま申し訳ございませんでした。わたくしたちの力が至らず…鬼からお護りできなかったこと、お許しくださいませ」
 悠と九重が地に三つ指をついて頭を垂れる。まったく話についていけない桜と蒼牙は顔を見合わせた。
 九重が涙をぬぐうそぶりをしながら、吉野と、髪が乱れた侍女長の唐島の方へ身体を向けた。
「吉野さま。唐島様。後生でございます。海神の君を姫の護衛官としてお戻しくださいませ」
「わたくしからもお願い申し上げます。わたくしたちは己の力を過信しておりました」
 二人の侍女がしおらしくする姿に、吉野と唐島は顔を見あわせ、苦笑を洩らした。
「そなたたちのせいではありませんよ。……わたくしたちも掟に縛られ、姫を傷つけてしまったのですから」
「海神の君、あなたの皇族特別護衛官の任を、お返ししましょう」
 侍女長に尊敬のまなざしでじっくりと見つめられて蒼牙は思わずたじろいだ。
「あ、ありがとうございます」
「さあ加持の者に伝えに行かなくては、主上にも春宮にも」
 吉野は明るさの戻った顔つきでてきぱきと働き始めた。地面に座っていた二人はささっと立ち上がって、ぽかんとしている二人にvサインを送る。
「よかったなー桜」
「おちびちゃんおめでとー、一生あたしたちを崇め奉り敬ってね?」
「はあ?」
 九重はまずお姫を運べ、と命令した。桜を屋敷に運び終えた蒼牙は所在投げに簀に座る。その後ろに、音もなく九重がたった。
「通例だと三日三晩通わなくちゃいけないけど、初夜が秘め始めなら、それもなし☆ おめでとさーん」
「……何が?」
「ええー? しらばっくれるきー? お姫の首筋の赤い痣は、なんだったのかなあっと」
「九重ッ」
 蒼牙が眉を吊り上げて怒鳴った。ひゃーこわい、と九重は奥に下がっていく。蒼牙は小さく息をついた。
 視線をあげる。庭の梅の木が淡く色づき始めている。明後日頃には花を咲かせるだろう。 





 冬は過ぎさる。
 凍てゆるむ蕾に、春の歌を聞かせて。





 fin.
 お、おわおわおわったああああああっ(ばったんきゅうー)後日、アナザーストーリーとして「0.5 ヒメハジメ」をかけたら、かきたい、なあ、です。そのお話はまあ、途中で区切ったとこの続きです。小春の思考回路がショートしなければのせられるとおもいます☆
 では、ここまでお付き合いしてくださり、まことにありがとうございました。
 次章「冥夜の光を辿りゆけ」はクーデター編です。おたのしみにー(笑)
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よかったねえ
良かったねぇ、二人とも。
えぐえぐ、つらかったね…
よく頑張ったね。

私の中の瑠那ちんが激しく見習え、こんちくしょう、とのたまっております。
クーデター編の最中、かなり師匠の風当たりは悪化しそうです。(いつもといえばいつも)

まあ、師匠に対しては徹底的に鬼な私はクーデター編でもくっつけないけどね(人でなし)。
梧香月 2008/12/21(Sun)18:49:46 編集
おかげさまで…ほろほろ。
はい。ほんとうに…ぐしぐし。ありがとうございます。
2人ともよく頑張ってくれたと思います。お母さんは嬉しいよ…(>_<)

瑠那姉さま………wwwほどほどにしてさしあげてくださいね(笑)
師匠、頑張れー!(ひとごと)
日和小春 2008/12/22(Mon)08:27:01 編集
嫌です(瑠那姉より)
元はといえばへたれなくせにやたらとモテるあの男が悪いので手加減は一切致しません。

…だそうです(鬼)。
梧香月 2008/12/22(Mon)12:38:38 編集
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