忍者ブログ
シュアラ編中心サイト。
最新コメント
[01/22 小春]
[01/21 梧香月]
[09/12 日和]
[09/12 梧香月]
[09/12 日和]
プロフィール
HN:
沙羅の語り部
性別:
女性
自己紹介:
沙羅ノ国。一般的には「シュアラ」の呼称がつかわれている。
帝と巫女姫が執政を行うこの国の、雅で切ない物語。名無しの語り部が語るとしよう。
[68]  [67]  [66]  [65]  [64]  [52]  [63]  [62]  [61]  [60]  [59
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 カルミノのお話から約2年前。戦争終結直後。
 「比翼の鳥」が消えてしまいました。

 +++*+++*+++*+++*+++*

 凄絶な神気に抱かれる社で、齢十に届くかとどかないほどの華奢な少女が一心に祈っていた。
 白木でつくられた祭壇には円い鏡が飾られ、橘の葉が左右に捧げられている。
 祭壇の後ろには壁がなく注連縄が張り巡らされた巨木の幹がせり出していた。
 
「たいらけくやすらけく。--しずまりたまえ」

 柏手をひとつ。少女の声が凛、とその場に波紋を落とす。注連縄がかかった巨木が燐光した。
 少女の額にまかれた白い布がひらりとなびく。ゆっくりと瞼をあげて、少女は肩の力を抜いた。

 先日、伽羅と沙羅の間で不可侵条約が結ばれ、戦は幕を閉じた。おおくの悼みと苦しみを残して。
 それからささやかにも時が流れ、両国の戦の傷跡が落ち着いた頃合いをみて、沙羅の巫女姫と伽羅の大神官が、殉死していった互いの国の武官の弔いの儀式を行った。
 行われた場所は両国の狭間に浮かぶ雲居の島。祭事の間、海が凪ぐことはついぞなく、凍った風が頬を撫で。
 その後都に戻っても、桜は本殿にこもり、禊を繰り返しては祈る毎日を送っていた。初めこそ柑子を口にすることはあったが、段々とそれは減り、潔斎だと称して何も食べなくなった。
 外で皆が心配していることは分かっていたが、戦災で散った御霊を癒し、黄泉の路をしめす役目を終わらせるまではここを一度たりとも出ない。と「巫女姫」の自分が宣下すれば兄の帝も口は出せない。
 桜の意志に加担するように神域にある白の神殿の本殿の神威は増し、並の人間では入ることが不可能なほどの清浄さを保っているのだ。
 それがいま、だんだんと緩んでいく。
 桜はふらりと立ち上がった。どのくらいの時がたったのだろう。鏡にうつる自分の顔貌はまるで死人のようだ。
 肌は色を失い、頬もこけ、簡素な装束に包まれた身体は痩せ衰えている。
 乳母に叱られるなと思いながら、地上に続く梯子に手と足をかけた。本殿は白神山中腹に構えられ、大人の男五人が手をつなぎやっとかこえるほどの太さの杉の柱が社を支えている。
 ゆるい勾配の梯子を降りて、本殿の真下にある長方形の石舞台に降り立つ。階を降りて裸足で大地を踏みしめると、やっと人心地ついたような心持ちがした。


「…あさ…」

 東の空がうっすらと白み始め、群青色の天(そら)が薄れていく。顔を表す日輪に礼をして、桜は衣を翻した。
 薬草や香油の入った湯で身体を温めてから、衣を改め、朝の膳をいただいてから桜は真っ直ぐに長兄の居所である清涼殿を訪れた。
 雪路は式盤と星の図面とを交互に目を通していた。ずいぶんと熱心な後ろ姿だったため、声をかけるのが憚られる。
 しかし、雪路はふっと息をついて、穏やかにほほ笑みながら振り返った。

「……終わったかい?」
 気は済んだのかと問いかけられた気がして、桜は淡くほほ笑んだ。
「…はい。今日にでも先ぶれを四神殿と退魔寮に遣わし、御霊鎮めの祭りを執り行うよう計らいたく存じます」
「そうか。……ではそれらが終わったら、しばらく休みなさい」
「え…」
「ずっと、休んでいなかっただろう? 御霊鎮めの祭りの日取りが決まるまで、ね」
「…ありがとうございます…」

◇ ◇


 山籠りからやっと戻ってきた桜を吉野は半ば泣いているような顔で出迎えた。悠と九重は安堵したように笑み、主に精がつくものを、と次々と膳を運んできた。
 見習いのイヨとキヨは寝台を整えたり湯を沸かしたり慌ただしく駆け回っている。

「このかゆを全部食って、薬湯を飲んだらぐっすり眠れ」
「起きたらまたお腹すいてるだろうから、城下で何か買ってくるね?」
 鶏肉と水菜を柔らかく煮込んだかゆをたまごで閉じて、悠が桜の前に指だす。二人の顔を見てほっとしてしまったのかとんでもない睡魔が身体を襲う。
 一週間近く眠らずに意識を集中して祈っていたから当たり前だが。
 膳を空にして、薬湯をのみ、九重に支えられながら寝台に横たわると、すぐに意識は夢の中へと落ちていく。
 その直前、頭上で声をひそめた二人の会話がそっと耳朶に触れた。
「れんれんは見つかったの?」
「…見つからないってさ。…だから、主上はこれ以上の捜索は無用って打ちきったみたいだ」
「…ふーん…」
 九重がそっと衾を整える。くて、と力を失った桜の細い手首をそっととって琴の中に入れた。


 
 白い羽が舞っている。
 ひらりふわりと視界を覆う。
 足元に咲くのは鷺の花。舞っているのはその花びらだと気付くのにそう時間はかからなかった。

『お願いがあるのよ』 

 聞きなれた声に、胸が潰れるような心地がした。
 ああ、夢。
 これは夢なのだ。
 そう言い聞かせる。花びらの舞うその先にぼんやりと人影が浮かび上がった。
 金糸が細く棚引く。



 ごめんなさい。


 桜は唇を震わせて呟く。


 ごめんなさい。ごめんなさい。
 伝えなければならなかったのに、
 もっと早く約束の言葉をあのひとに伝えていれば。
 緋い髪のあのひとはもういない。
 黄昏にのまれるように消えて行ってしまった。
 
 あのひとが悩み苦しみもがいていることに気づいても、
 何もすることができないまま。
 

 どこへいってしまったの。
 どこにきえてしまったの。

 
 わたしたちは、そう泣き叫ぶことしかできなくて。
 

 ああ、
 どうか。


 許して




 fin.
 +++++++++++
 夢の中でしか、慟哭は許されない。
 ちょい暗めの過去編でした。
PR
Comment
name 
title 
color 
mail 
URL
comment 
pass    Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
コメントの修正にはpasswordが必要です。任意の英数字を入力して下さい。
管理人のみ閲覧可   
胡蝶の夢、黄昏の闇
瞼の上に白い影が舞う。
それは既に朦朧とした意識の作り出す幻覚か。もしくは願望の生み出す儚い夢か。
貫いた銀の痛みは既になく。
また溢れ出た命の雫の作る泉の温もりもなく。

また一つ、白い影が瞬く。

羽根、否。花か。
白鷺の花が、舞って、……


否。


「……初めまして」
瞬いた鴉の、漆黒の羽根が目の前を過ぎて落ちる、いや、堕ちた。
視界[死界]を埋める、嫌いな焔と血の朱の向こうに、黄昏の迫り来た後の闇がくすり、と嘲笑う。

「……貴様は死神か」
「否定はしない」
「ここは地獄か?」
「間違いじゃないかもね」

自らの体に突き立った銀の煌きが、澄んだ音を立てて爆ぜ割れる。
黄昏へ、宵闇へ、総ての穢れを抱いた漆黒へ。
呑まれて消える、刹那の切ない悲鳴を上げて。

「ようこそ、美しく、鮮やかな絶望の世界へ。奈落の底の案内は不要かな――?」



==================
…即席の思い付きです。所要時間10分。
ラスト台詞は本編版レアシス=レベルトの象徴台詞。最後のところは、本当は「奈落の底に、突き落としてあげましょう」なんですが。
梧香月 2009/02/19(Thu)19:51:45 編集
おおおおおお
すごいです…/// ひゃあー読みふけっちゃったです(>_<)
なんだか私も思いついてしまったので。

「螺鈿の空」


 雪路は星図を置き、六壬式盤に手をついて深く息を吐いた。
 金色の獅子と紅の鷹。
 一方は戦の最中。
 もう一方は戦後、時がいくばくたってから。
 ともに姿を消した。
 親しい者たちが血眼で探す中、とうに見つからず。多くの者が嘆き悲しんだ。
 雪路は眉をひそめる。
 寄り添いあうようにあった二人の宿星は流れていない。ただ、少女の星が陰りに隠されている。何かが阻んでいるのだ。
 そして、もうひとつ。
 青年の星が流れかけた。けれど、はかないながらも瞬いて。
 占で分かったことはそれだけ。
 雪路は四方を注連縄でくくった部屋に赴き、結跏趺坐を組んだ。
 印を組み、意識だけが時の狭間を飛翔する。やがて視えたものは、漆黒に包まれた少年の姿。
 緋色が消えていく。逢魔が時を迎え、夜闇のなかへと吸い込まれていく。
 

 ふっと眼を開いて、雪路は目を細める。 

 
「……吉と出るか、凶と出るか」


 願わくば、黄昏の剣士と金色の獅子に再びまみえることを。
日和小春 2009/02/19(Thu)21:08:10 編集
Template by Crow's nest 忍者ブログ [PR]