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プロフィール
HN:
沙羅の語り部
性別:
女性
自己紹介:
沙羅ノ国。一般的には「シュアラ」の呼称がつかわれている。
帝と巫女姫が執政を行うこの国の、雅で切ない物語。名無しの語り部が語るとしよう。
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※あきら断髪ネタ。作業用BGM:No way to say/浜崎あゆみ|歌詞
ゆきじじは、あっきーのおばあちゃんに惚れてた過去があったりする。
大手毬(手毬花)の花言葉「私は誓います」「約束」
おまけに秘色色見本→








 そういえば、あの日も雪だった。
 先の東宮妃――雪路の実母が雪矢を出産した後(のち)にそのまま儚くなったあの日。涙を堪える雪路の手を強く握りしめて、彼の代わりにほろほろと頬を濡らしながら、自分は言ったのだ。
「ゆきは、ひとりぼっちなんかじゃあないよ。ゆきが幸せになるまで、ずっと一緒よ」
 ずっとずっと、守ってあげる。孤独から、血の歪みから、心の、痛みから。
 今思えばなんて欲張り。けれど気持ちは変わらない。堅く、強く、胸に刻んでいる。
 たとえ、自分が傷ついたとしても。その所為で、雪路が悲しんでしまうとしても。
 真っ白な雪原に、血の華が咲く。どんどん広がって行くそれは、零れて消えていく淡い想いに、ほんの少し似ていた。

※※※

 あきらは、眩しい程立派な――おそらく最高級の絹を染めあげた――反物から目を上げ、男の顔を見た。
 沙羅の国の頂点に立つ人、今上の帝の顔を。以前見(まみ)えた時より、驚くほど老けて見えた。雪路の祖父にあたるので、それは当然なのかもしれないけれど。
 以前というと、未だ東宮妃がご健勝であられた頃で、瞳には為政者としての鋭さが窺えたし、あきらの祖父と鷹狩りに興じるような闊達な面も垣間見た。なのに、どうしたことだろう。違和感を覚える程に目の前の男から覇気が消えたように思ったのだ。
 瞳から輝きは消え、口元に笑みはない。
(……笑って出迎えられる、とは思っていなかったけれど)
 あきらは、武家の正装の重さに辟易しながら身じろぎしたくなるのをじっと耐えた。
 今日内々に嵯峨の離宮に召喚されたあきらは、長い髪を結いあげ釵子と水晶の飾りがついた簪を挿し、間着(あいぎ)と呼ばれる白小袖に、祖母が選んだ打掛を羽織っている。
 白小袖は、錦織りの細帯を前結びにして垂らし、身ごろをゆったりと着付け、締め付けない。後ろに大きな帯結びを背負わずに済むよりは遥かに楽だ。背中に傷を負っている今は特に。ただし、金襴緞子の打掛の重さは馬鹿にならないけれど。
 紅地に金箔擦りの蔦模様、雲取りに白梅を中心とした多彩な草花と御所車そして飛鶴を織りなした打掛は、普段身に纏う綸子より遥かに重い。
「……鞘の君に似ておるな」
 ずっとだんまりだった帝の第一声はそれだった。一瞬誰のことかと思ったが、すぐに祖母のことだと思い当たる。昔、女官として御所に務めていた祖母の源氏名だ。
 今上が春宮だった頃の話だと言うから、随分と昔のことである。正面にいる帝が、他人に興味をあまり持たない人物、と認識しているが故に、意外だった。
「……よく、乳母に言われます」
 とりあえず応えを口にしながら、あきらは帝の様子を窺い続けた。
 昨年の冬、宇治に皇太孫たる雪路親王が不埒者に攫われた。いの一番に駆け付けたのはあきらで、凶刃に倒れそうになった雪路を身を挺して庇ったのもあきらだった。狼藉者を片付けたのは龍彦と円だったが。
 命がけで皇子を護った褒美を与えたい、と海神家に使いの者が現れたのは今朝。義兄と父親が所用で都を離れているから、と家人達は断るよう進言してきた。
(……あえて、義兄上と父上がいない日を見計らったのよね)
 そのくらい、察しはつく。そして褒美などというのは只の建前だということも。
 今上は雪路が皇統を継ぐに足る器とは認めていない。余計なことをして、というのが本音かもしれない。
 着いていけば何があるか分からないと強く引き止める家人を宥めて、ここに来ると決めたのは自分だ。弘徽殿の女御あたりもいるのだろうな、と見当をつけていたのだが、それは外れた。使者の言葉通り、嵯峨の離宮には今上の帝一人があきらを待っていた。
「……雪路の守り手は他に見繕う」
「は……?」
「そなたはもう雪路の守を務めずとも良い。年頃でもあるのだから、どこぞに嫁げばよかろう」
 あきらはかっとなり立ち上がろうとした、が。慣れない着物の重さと、急に動いた衝撃が背中に響いて激しい痛みに襲われた。背中の痛みに脂汗が滲む。それでもあきらはきっと帝を睨み上げた。
「春宮から、わたくしは雪路の守り手を託されております。その任は未だ全うしたとは思っておりませぬ。雪路には水の清めが必要の筈です」
「……水の清め。水の乙女か。……そなた、母親が人ではないらしいな」
 昏い眼がこちらに向いて、あきらはぎくりと身体を強張らせた。
「……たとえ神の眷属といえども、異形は異形。異形の血は皇統を継ぐ者には毒。それはそなた自身が良く分かっているな?」
 知っている。解っている。だからあの宇治でも、絶対に雪路が自分の血に触れないように細心の注意を払ったのだ。
 母は深海の王たる海神の娘。父は海神に縁ある男児。それが原因かは分からないが、本来境界で隔てられている陸と海の垣根を越えて結ばれたのが父と母だ。本来出逢うはずのなかった二人は夫婦として結ばれ、そして自分と弟が生まれた。
 震えそうになる指を、拳を作って止める。みるみる色を失う少女を冷たく見下ろしつつ、帝は続ける。
「皇の世継ぎはな、定められた一族以外の血を受け付けぬ。……父親も大人しく桂宮の三の姫をもらい受けてればよかったものを」
「――主上」
 息を深く吸って、吐く。胸に渦巻く感情の熱を冷ますために。
「主上は、〝女子(おなご)〟として殿下の傍に侍るのは障りがある、と仰っておられるのですね」
 もう震えは収まっていた。心は静かに凪いでいる。
 紫檀の椅子に座った帝はひとつ瞬きをした。こちらに向けられる勝気な漆黒の瞳。誰にも媚びぬ、流されぬ、凛とした白百合のようなその姿に、既視感を抱く。しかし一瞬の後に霧のようにあとかたもなく消え去った。
「そなたは女子(おなご)としては雪路を幸せにはできぬ。女子として雪路と通じてはならぬ」
 細い肩が強張る。勝気な瞳が刹那、揺れる。
 あきらは、唇を強く噛みしめて瞑目した。雪がほろりと解けるような、蕾がふうわりと花ひらくような、雪路の笑顔が浮かびあがり、泡沫の如く、消えた。
「……通じれば雪路はすぐに死に絶える。ゆめ忘れるな。それはそなたも同様ぞ。雪路と通じればお前も息絶えよう」
 絶句して眼を見開くあきらに、帝は閉じた扇を向けた。
「それでも雪路の守り刀と為るならば、ここに証を」
「証……?」
「その胸に秘めた感情を捨てなければならぬ。これらを飲めるか、人魚の娘。海と陸にさすらう宿命(さだめ)の者よ」
 あきらは言葉を重く受け止め、手の中の雪洞(扇のこと)をぐっと握りしめる。
 雪路の傍にいる為の証。つまり、〝女子〟を捨てる覚悟。俯いた拍子に、さらりと一筋髪がこぼれた。それを、ぼんやりと視線の端に捉える。
 生まれた時から、一度も切っていない、自分の黒髪。出かける前、喜多が念入りに梳って結いあげてくれた。海神一門の姫として恥ずかしくないように、と。

 この、髪は。

 今はもういない、大好きな母が愛しげに撫でてくれた。
 稽古で乱れてしまうと、父が苦笑混じりに、優しい手つきで梳いてくれた。
 幼い弟が、髪の端を掴んで、その感触を楽しんで歓声をあげていた。
 遊びまわって枝や葉っぱをつけたまま帰ってくると、叱りながらも祖母が櫛と油で綺麗に調えてくれた。
 一日の終わり。一つに纏めている髪をほどくと、『艶やかな髪なのだから、大事にしろ』と目を細めて義兄が髪をやんわりと触れてくれた。「おやすみ」の一言と共に。
 義兄がくれた秘色の結び紐は、一番のお気に入りだった。
 釵子を抜き、水晶の簪を外す。しゃらり、と名残惜しげに珠飾りが揺れた。複雑に結いあげられた後ろ髪の上半分を苦労してほどく。床に散らばった結び紐の中に、秘色を見つけて、一瞬目の端に溜まった涙がこぼれそうになった。
 すべての装飾を取り払った後、懐から錦の袋を引き出した。結びをほどき、懐剣を取り出す。黒漆塗りの柄に、鞘に金泥で逆さ三つ鱗紋を描いたそれは、初潮を迎えた時に、義兄自らが選んで贈ってくれたものだ。
(こんなことに使って……ごめんなさい)
 あきらは顔を上げた。視線の先では帝が訝しげに眉を顰めている。どこまでも澄んだ眼差しと、昏く濁った視線がかちあった瞬間、あきらは凛と言い放った。
「これを、証に」
 短く言いきると、地につくほどに長い髪を一纏めにして、肩の上辺りで刃を当てた。

※※※

「お待ちくださいませ。宮様っ」
「主上は今お一人になりたいと……! 斎宮っ」
 若い女官達は息せき切って呼びとめながら、必死に雪音内親王を追いかけた。とうの雪音は摺り足で追いかけてくる女官達をものともせず、すたすたと袴をさばいて細殿を渡る。向かうは嵯峨の御所、正寝殿鶴の間である。
 雪音の格好はどこからどう見ても帝のおわす殿に上がるには相応しくない出で立ちであった。武芸の稽古着である小袖と、素足の見える切袴、その上に濃き単衣と小袿を重ね、形ばかりに釵子を髪に挿してはいるが、正装には程遠い。
 やっと鶴の間に近い孫庇に着いたところで、雪音はようやっと歩幅をゆるめた。
 庭の手毬花の傍に、老年の男が立っていた。傍に侍従や典侍の姿はなく、男一人である。
 雪音は後ろにいる女官に下がっているように命じる。そして、自分が今履いているのが皮足袋であることをいいことに、そのまま庭に下りた。
「主上、お聞きしたいことがございます」
「……その前に、その品のない格好はどうにかならぬか。斎宮よ」
 扇で口元を覆い、帝は不快感も露わに娘を見下ろす。雪音は澄ました顔で応えた。
「急ぎでございましたので。内裏ではないのですから、構いやしませんわ」
 帝は振り向かない。雪音は怒気が膨らんだ。しかし、柳眉を釣り上げるだけに留める。
「……挨拶も致しません。前置きも省き、単刀直入に申し上げます」
 そう口にして、一向にこちらを向かない男――父帝の前に回り込み詰め寄った。
「海神の大姫を呼び寄せたとは誠にございますか」
「朕は亡き皇后の廟へ行幸し、ついでに湯治をしてまいったのだ。皆もそういっておろう?」
 顔色一つ変えずに、帝は返答する。雪音は忌々しい気持ちになりながら、つとめて平静を装った。
「わたくしには優秀な草(※隠密)が就いていることをお忘れなく。たまたま離宮付近の社に待機していた者が、確かに大姫を見たと言っていたのです」
 必要があれば、式で写した映像をご覧になられますか。雪音はひるまずに斬りこんだ。
 少しの間をおいてから、帝がゆっくりと口角を釣り上げる。
「……そなたは賢(さか)しすぎる。内親王らしく、奥でおっとり構えていればよいものを。何のために朕が取り計らったのか、無駄骨に終わるではないか」
「わたくしはわたくしです。……おそらく宮中ではわたくし以外気づいている者はおりますまい。その点はご安心を。ですが、解せぬのです」
 雪音は父帝を見上げた。随分と老けた。こんなに父は年を取ったように見えただろうか。いや、今はそのようなことはどうでもいい。
「大姫に、鶴(たづ)とのことを話すのは、春宮から直々にわたくしが一任されしこと。なぜ、主上みずからそのようなことを」
 叱責の声に、ただ帝は鶴の間を袖で示しただけだった。雪音は眉根を寄せてから身を翻し、鶴の間に上がり、そして言葉を失った。
 床の上に散らばっていたのは、長く豊かな黒髪だった。艶々としたそれは、まさに翡翠の髪状(かんざし)。まさか。雪音は一瞬で誰のものかを悟ったが、否定するように首を振り、それに触れた。
 ぎし、と床板が鳴る。振り向いて背後の人物が父だと分かると、直衣に掴みかかんばかりの剣幕で詰め寄った。
「髪を……下ろさせたのですか……っ!?」
 ここまで取り乱したのは初めてかもしれない。淡々とした父の顔がこんなにも憎らしいことも、かつてなかった。
 父は何も言わない。それだけで察した雪音は半ば叫ぶように続けた。
「傷も癒えきっていない娘に、なんということを……。なんということをさせたのですっ! お父さま!」
「髪を下ろした者は妃として遇されぬ、というのは御所内でしか通じぬ。市井では目立たぬだろうよ」
 目の前が真っ暗になり、力を無くした雪音は膝をついた。巫女である故か、髪に込められた〝心〟が、雪音に流れ込んでくる。痛々しいほど真っ直ぐな、無垢なる想い。
 気付けば雪音は泣いていた。涙を流しながら、上手く力の入らない拳を振り上げて、床を打つ。幾度も。何度も。
 再度振りかざした細腕を後ろから誰かに掴まれた。
「……! 離しなさ、っ!?」
 眦を釣り上げて睨んだ先には、息を切らせた守役の姿があった。左頬に傷のある、自分の守り手。彼は、悲痛な表情で頭(かぶり)を振った。
 がくりと力が抜けて、身体が傾ぐ。青玻はしっかりと手を握り支えてくれた。その手を借りて、立ち上がる。そうして冷静さを必死に取り戻す。
 無残に散った長い黒髪は、あとで八尋に頼み、しかるべき処置をしてもらわなければ。霊力のある髪をそのままにはしておけない。
 あとは、ああ。甥になんて伝えれば。そして、髪を切ったあの子に、なんと言葉をかければいいのか。
 肩を支えられながら鶴の間を去る間際、雪音は苛烈な眼差しを父に向けた。
「お父さまは……父上はなにもおわかりではない……っ!!」
 そう言い残して去った娘の後ろ姿を見送ってから、帝は室内に視線を向けた。そして手折ってきた手毬花を一輪、散らばる髪の上にほとりと落とす。枝先に集まっていた白い小花が崩れて、雪のように切った髪に降り落ちる。
「そうだ」
 花と髪を眺めながら、帝はそっと囁く。

「私は、分かったことなど、一度もない」







いくつになっても相変わらずな私は
今でも臆病で
強がる事ばかり覚えて行く
-終-
***

残された遠い昔の
傷跡が疼き出してまた
震えてる心隠して
微笑みにすり替えた

いくつになっても相変わらずな私は
今でも臆病で
強がる事ばかり覚えて行く

伝えたい想いは溢れるのに
ねぇ上手く言葉にならない
あなたに出会えていなければこんな
もどかしい痛みさえも知らなかったね

少しずつ認め始めた
癒されぬ過去の存在と
拒めない未来にいくら
怯えても仕方ないと

あとどの位の勇気が持てたら私は
大事なものだけを
胸を張って大事と言えるだろう

確かな想いは感じるのに
ねぇいつも言葉に出来ない
誰もがこうして言葉にならない
想いを抱えながら今日も生きている

伝えたい想いは溢れるのに
ねぇ上手く言葉にならない
あなたに出会えていなければこんな
もどかしい痛みさえも知らずに

確かな想いは感じるのに
ねぇいつも言葉に出来ない
誰もがこうして言葉にならない
想いを抱えながら今日も生きている
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あっきーよちよち(´・ω・`)つ
偉かったお。いっぱい怒られるだろうけど、いっぱい怒られた分、御子息はきっと誉めてくれるお(´・ω・`)
あっきーの切なさも雪音っちの怒りも解るし、他にやりようがあっただろうと思うけれども、冷静になるとじじ様の言うこともけして間違いとは言い切れないのがまたつらい(´・ω・`)
ゆっきーともお友達になるんだから、御子息、せめて本命以外のところでは甲斐性ある男になれよ。
梧香月 2014/05/04(Sun)18:16:56 編集
ありがとうございます(´・ω・`)
御子息(´;ω;`)ブワァ 蓮くんが幼馴染で本当によかったお……。
それぞれの言い分があって、それぞれ自分で選んで決めた道を生きていくのですよね。
このお話は、「正解とか間違いは関係ない。ただ選んで進むだけ」と念じながら書きました。ゆきねっちにはあっきーの代わりに泣いてもらいました。後にも先にも彼女が泣くのは多分これ一回きり。

御子息wwwwwおかーしゃ厳しいねwwwww
小春 2014/05/04(Sun)18:29:00 編集
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