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プロフィール
HN:
沙羅の語り部
性別:
女性
自己紹介:
沙羅ノ国。一般的には「シュアラ」の呼称がつかわれている。
帝と巫女姫が執政を行うこの国の、雅で切ない物語。名無しの語り部が語るとしよう。
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死ネタです。がーちゃごめんぬ。
なんとか書き終わりました。




 君、ありてこそ

 東国の桜が散り始めた頃。海神家に早馬がつき、屋敷はにわかに騒がしくなった。
「蒼牙が……?」
 ほとり、とあきらの手から花鋏が落ちた。愕然とした伯母の面持ちに胸を締め付けられて、蒼太はきゅっと唇を噛みしめる。
「みまかった、とな」
 やや戸惑いを含んだ声色で龍彦が問えば、蒼太は開いた文を差し出した。それを受け取り、龍彦が息をつく。
「胸の病がたたって、とある」
「胸……?」
 あきらがさっと顔を青くして蒼太を見つめた。
「お前たちは、知っていたのか」
 静かに尋ねられ、蒼太は僅かに目を伏せてから、こくりと頷いた。
「母上の葬儀が終わってから、血を吐くように……。僕たち姉弟に、このこと口外するなと固く口止めをなさいました」
 もともと、数年前に極寒の任地へ向かった際に受けた傷がもとで、父はあまり無理の出来ない身体になっていた。そこへ母が病にかかった。父は母がどんなに諫めても、自分が看るときかなかった。結局、鷹の大殿の知恵を授かってきた篠田将軍の雷が落ちて、沙緒がつくようになったのだが。
「……母の葬儀の際、神宮省が火葬に反発しまして、それが一番堪えたのだと思います」
 母の遺言には、皇室慣例の土葬ではなく、火葬による密葬にしたいとあった。陵もごく小規模に、葬儀も内々の者だけで見送ってほしい。
 いつも静かに微笑んで、我が儘らしい我が儘も言わなかった母の願いである。しかし。
 蒼太はぎりり、と音をたてて歯を噛みしめた。
「母上が死んだ途端、遺骨や、遺髪を……神遺物として社に奉りたい。そういってきかなかったもので、その対応に追われて、夜も寝ないでいましたから」
「……あの餓鬼」
 龍彦は苦い気持ちでこめかみに手をあてた。
 一言いって寄越せば良いものを。
 桜は髪一筋損なわず火葬されたというから、本家の威光に頼らず、後継たる青牙と神宮省との関係を歪めることもなく独りで片づけたのだろう。
「まったく、馬鹿な子ね」
 あきらは努めて明るく微笑もうとした。けれど声が掠れてしまい、蒼太がますます気遣いげになる。隣にいる夫さえも、強く手のひらを握ってきた。
 ああやめて。あきらはきゅうと眉をひそめてしまう。胸の奥に押し込めようとしていた感情が、溢れそうになったからだ。もう初孫までいる自分だ。それに蒼太の前では、凛とした伯母様でいさせて頂戴と龍彦をなじりたくなってしまう。
「伯母上」
 懐に入っていた桐箱を取り出して、蒼太はおずおずと差し出した。その、姿が。
『――あねうえ、どうしたの? どっかいたい?』
 目の前にいる甥は、もうじき二十歳になる立派な若衆だ。なのに、どうしてあどけない姿が重なって見えるのだろう。  
「亡くなる数日前、これを……伯母上にと言付けたそうです」
 蓋を持ち上げた時、ふわりと初夏の薫りが吹き抜けたような気がした。そうして見下ろせば、一束の髪が綿にそっと包まれている。黒々と白髪もない、瑞々しいままで。
『あねうえ!』
 一気に視界がぼやけて、代わりに浮かんだのは嬉しそうに駆け寄ってくる幼い弟の姿だった。泣き虫で、甘えん坊。抱き寄せれば柔らかく、温かな。
「……っ、どうして……!」
 手首に下げていた匂い袋と遺髪を握りしめて、あきらはとうとう顔を覆った。もううっすらとしか香らなくなったそれは、去年先立った義妹が東国に来た際に合わせたものだ。
 末子の青牙を産んだばかりだというのに、桜は少女の頃のまま相変わらず愛らしかった。三人の子の行く末を見守りながら、ゆっくり老いていければと彼女は笑っていた。
 また東国の桜をみたいという願いは、ついぞ叶えられることはなく。
 あまりにも早すぎる。これからだったというのに。
 はらり、と膝に零れるものに気付く。それは、一枚の葉だった。
 知らず目の前に差しだされていた文箱の中には、葉桜の束が入っていた。遺髪が入っていた桐箱にくっついていたのだろう。
「……?」
 そっと添えられた文に気付き、あきらはそれを手に取った。そこには、懐かしい幼なじみの流れるようや手績で綴られた、歌が。
『己(お)の道を ながらいていき 我らなれ 都桜の 散らぬうちにぞ(己の道を身勝手に生きた私の弟子であったから、己の道を身勝手に逝ってしまったのでしょう。都の桜が散り終えてしまう前に)』
「……落花流水」
 落ちた花びらは流れ、水は花びらを浮かべて流れていく。どこまでも。どこまでも。
 花は水に恋をし、水も花に恋をする。
 それを体現したような弟夫婦だった。お互いの強い結びつきは、誰にも断ち切らせない。繋いだ手のひらはもう決して、ほどかれない。
 今頃、黄泉のほとりで、待っているであろう妻に、きっと「早すぎる」と叱られているだろうか。少しだけ、笑みが浮かんだ。
 自身の運命に翻弄され続けた二人は、もう永久(とこしえ)に離れることは、無い。
 それだけで、救われる思いがした。
 ふいに肩を引き寄せられる。気遣いげに見下ろす夫に軽く微笑みを返した。
「母上……」
 見れば二人の息子が案じるような顔つきで自分に寄り添っていた。大丈夫よ、と頷く。あきらはふるりとひとつ身を震わせてから長く息を吐きだした。
「ごめんなさいね。蒼太、都に上がるのなら、いろいろと準備が必要でしょう」
「はい、伯母上。明日には立つつもりですので……」
「青玻の大叔父上が、竜を貸してくれるそうだ。馬よりも速いだろう、使え」
 龍浩が渋い顔つきで言った。龍浩自身、幼少期の頃から可愛がってくれていた叔父だ。出来れば自分も行きたいが、東国のいまの情勢では、嫡男たる自分は吾妻の都を離れられない。
「ありがとうございます」
 蒼太はふにゃり、と笑み崩れた。
「蒼太。ひとつ、お使いを頼まれてくれる?」
「はい。もちろん。どなたに?」
 気分を持ち直した様子の伯母に安心しながらも、訝しげにしていると、綺麗に折りたたまれた青の薄様の紙が差しだされた。
「これを、天武の大殿へ」
「大殿にですね。わかりました」
 庭の枝垂れ桜に目を向ける。さあ、と風が吹き、はらり、はらりと散っていく。切なさと、懐かしさ。
 いつか自分もあちらに行く時があるだろう。その時は、弟をうんと叱ってやらなくては。

※※※

 永智五年。史上最年少で斎宮の守役に抜擢された津鬼蒼牙が自身の妻を追うように亡くなっている。遺体は火葬され、先に亡くなった櫻内親王とともに葬られ、廟が立てられた。やがてそこは流花の社と呼ばれ、落花流水――男女の相思相愛の御利益があると篤く信仰されることになる。
 また、津鬼家嫡子・津鬼青牙が津鬼家を継ぐ際は、東国に離れた海神本家に代わり、天武蓮が見届人を務めたという。
 海神家初代征東将軍正室晶姫の記録は少ないが、弟が亡くなった歳、天武蓮とかわした歌だけは奇跡的に残っている。


『花もみな 散りぬる都は ゆく背子の ふる里とこそ なりぬべらなれ』


 花も皆散ってしまった都は、
 去りゆく弟があとにして行った故郷ということになってしまうのね。

fin.
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がーちゃ…(´;ω;`)
鷹羽全章の歌を取り入れてくださり、ありがとうございました。
あっきーもよしよし(´・ω・`)つ
八十になったら聖蘭邸の庭で一緒にお花見しようぜ…
梧香月 2014/03/29(Sat)21:07:51 編集
(´・ω・`)
蓮くんもあっきーも大好きなのれす。
あともちょっとで完成……かな。
この話はきちんと書きたいです。
幼馴染好きですww
小春 2014/03/29(Sat)21:29:50 編集
がーちゃ( ;Д;)
何も心配いらないからあの世で安心して爆発していておくれ……!(リア充的な意味で)
哀しいけど篠田将軍の雷がとても気になりますw

あっきー撫で撫で(´・ω・`)つ
励ましに沙音が遠出して行くと思うお。大丈夫、天武は璃音がきっちりしてるし、「嫌な予感がした」レーダーでねーさんも帰って来てると思うお!
梧香月 2014/04/05(Sat)18:06:37 編集
爆発通り越して
ソニックブーム引き起こせばいいとおもいますww超音速飛行により発生する衝撃波^p^
悠ちんはあまりのがーちゃのあほんだらぶりを見て呆れかえり、師匠に相談しにいっておどしもん……(げふんげふん 知恵を授かってきましたw
しゃのちゃあいあとー(*´∀`*)零音ちゃんが帰ってきてくれたら、がーちゃすげえよろこびますよ!
小春 2014/04/05(Sat)18:48:06 編集
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