忍者ブログ
シュアラ編中心サイト。
最新コメント
[01/22 小春]
[01/21 梧香月]
[09/12 日和]
[09/12 梧香月]
[09/12 日和]
プロフィール
HN:
沙羅の語り部
性別:
女性
自己紹介:
沙羅ノ国。一般的には「シュアラ」の呼称がつかわれている。
帝と巫女姫が執政を行うこの国の、雅で切ない物語。名無しの語り部が語るとしよう。
[136]  [135]  [134]  [133]  [131]  [132]  [130]  [129]  [128]  [115]  [124
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

この前のチャットで華音ちゃんに勇気づけてもらったので。
小説にしてみました。
ちま蒼牙奮闘記。楽しんでいただけたなら幸い。


 蒼牙はちょこんと正座して、目の前の中門が開くのを待っていた。
 少し薄暗いけれど、なんてことはない。義兄上や姉上からは闇は恐れるものではないと教わっている。
 一人はさみしかったが、我慢である。教えてもらった通り、背筋を伸ばして、眉を引き締めてひたすら待った。
「海神の末若君、ここでおりこうにお待ちになってくださいね」
 香羅が優しげに笑いながらそう言ったからだ。約束は絶対なのだと、常日頃から義兄に叩きこまれている。やがて、中門が静かに開き、香羅が現れた。
「お待たせしました。末若君、桜さまがお待ちですよ。香羅はここでお別れですが、姫宮さまをお願いいたしますね」
「うん。香羅、ありがとー」
 ほわほわと温かい笑顔で見送られて、蒼牙は入り組んだ細い廊を小走りで渡った。以前義兄に連れられて物見台から後宮を見下ろしたことがある。上から見ると碁盤の目のように直角で、単純な作りに見えた後宮だが、中に入ると、まるで迷路のように入り組んでいる。
 それでも蒼牙は道順を間違うことはなかった。何故か分からないが、巫女姫の居場所がなんとなく分かるのである。額に顕れた巫女守の印の影響が大きいのだが、それを彼に教えるものはいない。
 神宮に勤めるにあたっての心構えは、折々に叔父に教わっている。けれど、先代の巫女守であった叔父は、同じく先代斎宮の姫宮と共に都から離れた五つ瀬に行ってしまった。
 さほど遠くはないけれど、簡単にはいけない距離である。式神を使えばひとっとびらしいのだが、やはりあちらの生活が忙しく、こちらにくるのは夏ごろになりそうだとこの前言っていた。
『それまでに、ちい姫と仲良くなっているんだよ』
 指切りげんまんまでした約束を不意に思いだし、蒼牙は足を止めた。ちょうど東側に舞殿が見える。舞殿の北方に立っているのが、自分の目指す斎宮殿だ。
 蒼牙はぱちぱちと瞬きしながらその館を見上げる。とても大きいが、なんだかすごく静かだ。自分の住まいである海神家も御所ほどではないが大きく、いつでもだれかがいて賑やかなのに。
 なにもかもぴたりと止まっているようだ、と蒼牙はいつもおもっていた。回遊式の南庭には色とりどりの花々が植えられているが、まるで息をしていないかのようにぴくりとも動かない。
 生き物は呼吸するものだと姉は教えてくれた。なのに、どうしてだろう。どうしてそう見えるのだろう。
「海神の君」
 急にぴしゃりと小枝で叩かれたように呼ばれて、ぼんやりしていた蒼牙ははじけんばかりに飛び上がった。
 ついでに尻もちをついてしまう。痛い。見上げれば、目の前に斎宮の乳母である吉野が立っていた。髪を真ん中で分けて、後ろに長く垂らしている。御所の格式高い女性がする髪形で、垂髪というのだ。
 鮮やかな緋色の打袴に、重たげな色の単衣、濃き緑の五つ衣、これまた重厚な唐草と牡丹の表着といった
 出で立ちである。御所の礼法にのっとった衣装は、とても重たげだった。
 いつも小袖に切袴の恰好で走り回る姉を見ているせいか、こんなにぶかぶか着こんでいると走りまわれなくて大変そうだと蒼牙は毎度思う。
「もうとっくに約束の刻は過ぎておりますよ。何度目です」
「ごめんなさい…」
 蒼牙がしゅんとして素直に謝ると、きつい吉野の表情が一瞬ほころびそうになる。だが、無理にそれを引き締めて、広袖を翻し、斎宮殿へと戻っていく。
 
 日当たりの良い居室に通される。縁台に腰掛けて、庭を眺めていた自分の主が振り向いた。肩先までの髪がさらさら揺れる。
 人形のような、否人形そのものの昏い瞳が蒼牙を映す。ビードロのようなそれは、もうとうに慣れたけれど、少しばかり物足りない気持ちがした。
 蒼牙は腰をおろして頭を下げる。
「青龍が次男、海神蒼牙。まかりこしました」
「……ご苦労さまです」
 たっぷり沈黙してから、それだけをか細く返す。そうしてまた長く黙り込んだ。
「…は…」
「?」
「かのんちゃまは、いらっしゃらないのですか?」
 それは自分だけでは不満ということだろうか。蒼牙は反眼になるのを隠そうともせずに、姫を見返した。
 すると、自分よりももっと小さな少女は肩を強張らせて、俯いてしまう。
 もっと怖い顔をしたら、泣くかもしれない。
 興にのりかかった蒼牙だったが、桜のそばに坐した吉野が彼を睨んだことによって企みは脆くも崩れ去った。
「華音殿は新隊の一番槍。お忙しいのでございましょう」
「……そうなの」
 少女はほんの少し残念そうな表情をするものの、すぐに感情の色は消え去る。
「今日は、お仕事がそんなにないのです」
「ほんと?」
 ぱっと蒼牙が顔を輝かせた。桜は瞬きをして首をかしげる。
「それじゃあ遊べるね。遊ぼうよ」
 蒼牙は自分に課せられた巫女守の役目を軽んじることはないが、やはりまだ九歳になったばかりの少年なのであろう。
 神宮の楚々とした仕事よりも、外で活発に動いたほうが数倍楽しいのだ。
「あそ、ぶ…」
 はた。と高揚した気分を抑えて、蒼牙は神妙に伺った。
「遊びたくないの?」
 きゅ、と唇を噛んで、桜は俯いた。それからゆっくりと顔をあげて、ぎこちなく頷いた。
 蒼牙はきりりとあげていた眉をハの字にした。
 この子と知り合ってから、再三こういうやりとりをしているのだが、いつも同じだ。
 自分とは遊びたくないのだろうか。華音が来た時は楽しそうにする癖に。
 やたら面白くない気分になって、蒼牙はぶすくされた。
「…じゃあ、いいよ」
「………ごめんなさい…」
「あやまるなよ!」
 びくりっと桜の肩が飛びあがる。われ知らず立ち上がっていた蒼牙はたじろいだ。
 怒鳴ってしまった。今度こそ泣くに決まっている。大きな声をあげられるのはとてもとても怖い事なのだから。
 けれど、桜はぎゅう、と唇を噛むが、琥珀の瞳にはうっすら涙の膜が張っているだけだ。
 泣きもしないなら怒ればいいのに。それもしない。怒ってくれれば謝れる。
 ならば一体自分はどうすればいいのだ。
 むなしい心地になって、蒼牙はくるりと踵を返してそのまま走りだした。

◇ ◇ ◇

 勢いよく走り込んでも所詮は幼子。御所の外郭門をくぐって、五神楼閣が見えて来る頃には息も絶え絶えになっていた。
 そのまま失速して、しまいにはとぼとぼと歩きだす。
 きっと傷つけた。なのに自分は逃げてしまった。
(でも、どうすればいいか、わかんなかったんだ)
 そう心で言い訳してから、『でも』や『だって』は義兄が一番忌み嫌う言葉だったことを思い出す。
 等間隔で植えられた柳が蒼牙を宥めるように優しく揺れた。それでも心は晴れないままで、いつのまにか修練場に足が向いていた。
 昼餉をここで義兄達と共に食べたのだ。もしかしたらまだいるかもしれないと思ったからだった。
 目的の義兄はいたが、どうやら稽古に夢中になっているらしく、蒼牙には気づかない。こう言う時は邪魔をしてはいけないのだ。蒼牙は柳の木の下にちょこりと腰を下ろして膝を抱えた。
「蒼牙? 一人でどうしたの?」
 金色の帯が目の前をよぎる。顔を上げればとても優しい碧の瞳があるのを蒼牙は知っていたが、顔は上げられなかった。
「うん……」
「? 何かあった?」
 元気ないね。と華音が横に腰を下ろす。蒼牙は、こくりと唾をのんでから、ぽつりと言葉を口にした。
「……桜がぜんぜんたのしそーじゃないから、つまんない」
 吐きだしてしまうと、もう止まらなかった。
「怒るのも、笑うのも、しないんだもん…。なんでかなぁ?」
 止まらなくて、どんどん鬱憤が言葉になって吐きだされていく。横の華音から表情が抜け落ちていることにも気付かないまま、蒼牙は続けた。
「…俺、なにかしたかな。嫌われてるのかな」
 一番はそこなのだと、口に出してから気づいた。初めて会った時、あんまりにも小さいから護ってあげなきゃと思った女の子。
 だけど女の子の方は蒼牙を望まない。いないかのように振舞う。それが、悲しかったのだ。
「……桜は蒼牙が来るのを嫌がるの?」
 静かに尋ねられて、蒼牙は少し考えてから、頭を振った。定刻の挨拶の為にお屋敷に上がる時も、仕事で付きそう時も、心がどうかは知らないが、桜は蒼牙に拒絶の意を表したことはなかった。
「ううん。お部屋にいれてくれるよ」
「蒼牙は、その子に怒ったり泣いたりして欲しい?」
 はっと顔をあげれば、真剣な碧の瞳があった。蒼牙は小さなころから華音の瞳を見つめるのが好きだった。
 きらきらしていて、とても深くて、まるで空のように晴れ渡った瞳を見ていると、心がとっても安らぐから。とても素直になれるから。
「……ほしい。だって、」
 だって、きっと。
 初めて会った時も思った。次に会った時も。その次も。まあるいほっぺに赤みが差して、大きな琥珀の瞳が輝けば、山茶花を散らしたような唇が笑みの形になったら。
「笑えば、きっと、…もっと可愛い」
 言ってから、少し恥ずかしくて俯いた。少し前までは、異性に対して素直に褒め言葉を並べることができていたけれど、最近はとみに恥ずかしくてならない。
 一番大好きな瑠那にさえ、ここのところ抱きつかなくなったし、気持ちを素直に言うこともなくなってきていた。
 華音はにこりと微笑んで、蒼牙の頭を撫でた。師匠よりも小さくて、自分よりも大きな掌が優しく黒髪を撫ぜると、心が軽くなっていくようだった。
「……だったら、とっても人見知りしちゃう子なんじゃあないかな?」
「ひとみしり?」
 蒼牙が繰り返すと、華音は頷いた。
「ほら。蒼牙だって最初からあたしとこーしてお喋りしてくれてたわけじゃあないじゃない?」
 その科白に、蒼牙は記憶を辿る。そういえば、師匠を介して彼女と知り合った時、気恥かしくて、何を話せばいいのか分からなかった。
 ずっと師匠の背中に隠れている自分に、彼女は屈託なく笑って膝を折って話しかけてくれたのだ。
「……うん。そーだった」
「本当はねー、あたしも蒼牙たちくらいのとき、そうだったんだよ?」
「そうなの?」
「うん」
 これには吃驚して、蒼牙は目を瞬かせた。華音は修練場で稽古に明け暮れている蓮を見て、一瞬昔を懐かしむように目を細めた。
「…蓮が遊びに連れ出してくれても物凄く突っ撥ねてた。あはは、今考えるととんでもないね」
「かのねーちゃんが?」
 いつでも師匠の傍にいて、くるくる笑ってる華音が、そんなことを言ったなんて。
 到底信じられなくて、蒼牙はただ彼女を見つめるしかできない。
「うん。ええとね……酷い時は会って開口一番が「何しに来たの?」だった。本当は嬉しかったんだけどね」
 蒼牙は改めて師匠である蓮を尊敬した。『何しに来たの?』と言われてしまえば、自分はすぐに怒って帰ってしまうに違いない。
 それをしない師匠が、とても大人で本当に立派な人に思えた。
「……そうなんだ…」
「何ていうかね……よく解らなかったんだ。自分が思ってることなんて、どうでも良かったっていうかな……そういう可愛くない子だった」
「……」
 華音は視線を蒼牙に戻す。温かい眼差しだった。
「どうせすぐ来なくなると思ってたんだけど……蓮はずっと来てくれたよ。少しずつだけど、楽しいこととか、痛いこととか、嬉しいことか、教えてくれた」
「……ずっと…」
 そうか。と蒼牙は得心した。
 きっと、桜は知らないのだ。楽しい事、痛い事、嬉しい事。蒼牙が当たり前だとおもうものを、桜は知らないのだ。
 だったら、教えればいい。自分が義兄や師匠にそうしてもらってきたように。ずっと傍にいて、教えてあげよう。
 そうすれば、きっと笑ってくれる日が必ず来る。
「……あ、これ本人には内緒だからね! だからずっと感謝してるよ。まだ龍彦隊長の下にいるとき、相棒になってくれて凄く嬉しかった」
 慌てふためく華音の向こうでは、まだ蓮と龍彦が仕合っている。あの二人が稽古を終わりにした頃には桜と仲直りできているだろうか。
 相棒というのはなんだか自分と桜には似合わない気がする。けれどぴったりの言葉は、これから二人で見つけていこう。
「うん。ないしょ。……ありがとう。華音ねえちゃん」
 ぱっと立ちあがって、誇りを払う。こうしてはいられない。喧嘩をしてしまったら、仲直りだ。 
「俺、もどる!」
「あはは、これはあたしの話だけどね。頑張って、蒼牙!」
「うん! いってきます!」
 背中を叩いてくれた華音に大きく頷いて、蒼牙は走り出した。
 きっと初めはうまくいかない。でもそれは当たり前だ。だから何度も。何度でもやってみよう。
 
 そんな蒼牙を後押しするように、温かい春風が強く強く吹いた。



 終

PR
Comment
name 
title 
color 
mail 
URL
comment 
pass    Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
コメントの修正にはpasswordが必要です。任意の英数字を入力して下さい。
管理人のみ閲覧可   
がーちゃもらーちゃもかわゆす(*´∀`)
華音、そして香羅たんまで使ってくださってありがとうございました!
らーちゃがとても華音に懐いてくれていて感動。がーちゃ頑張れ!
華音は君を応援してるお!
がーちゃも折り紙とあやとり覚えようぜ、っていか華音とらーちゃで教えてあげようぜ(笑)

でもがーちゃ、それ稽古やない。ただの義兄弟喧嘩や(´・ω・`)
きっと華音が「そろそろいい加減にしないと夕飯の豆乳鍋食べさせないわよ!(゚д゚)」とか言ったら止まる喧嘩や。
梧香月 2011/12/02(Fri)20:31:38 編集
ちまちまシュアラ(*´v`*)
久しぶりに余所さまのお子さんを小説で書いてみたのでうまくいっているか不安ですっ。ドキドキ。
喜んでいただけて嬉しいですーv
感動してくださいましたか! それは嬉しい!
らーちゃはかのちゃんに懐いておりまするよ。ゆっきーが「(´・ω・`)」とするくらいに。ゆっきーは自助努力が足りない(`・ω・´)
がーちゃに是非是非折り紙とあやとりをおしえてやってくださいませwww

尊敬のまなざしで見つめていたとかいときながら、
どーせ義兄弟喧嘩してんだろなー(´・ω・`)とおもてたwwww
かのちゃww無敵wwww兄上の方もあっきーに「一緒にご飯食べるの(゚Д゚)!」って言われないととまれないおwwww
小春 URL 2011/12/02(Fri)22:04:07 編集
Template by Crow's nest 忍者ブログ [PR]