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シュアラ編中心サイト。
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プロフィール
HN:
沙羅の語り部
性別:
女性
自己紹介:
沙羅ノ国。一般的には「シュアラ」の呼称がつかわれている。
帝と巫女姫が執政を行うこの国の、雅で切ない物語。名無しの語り部が語るとしよう。
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 蓮くんが華音ちゃん奪還に奮闘している間のできごと。
 原作でよく似た出来事(とりあえず一族にとりついてた悪いものときょうだいぼこりあいながら戦って勝ったよ的な事件)があったと踏まえて読んでいただければ。
 さらりと読んでいただければ。
 この先の話を書くために、これは避けては通れぬ道なので…四苦八苦しながら書きました。難産でした。ちょいちょい直してこうとおもいます。

使ったBGMつ「さよなら大好きな人」「グッドラック」
香月さんから勧められたイメージソング「say goodbye & good day」

 では、こまけえことは気にするな精神でどうぞ!



 君が居てくれたから。
 僕は寂しさを知った。

 
 ◇

 霊山の麓に経つ御所は、城下にくらべて天候がうつろいやすい。
 今の時期、市井では桃の花がとっくに散り、桜の花がほころびはじめる時期である。しかし細殿から見上げる空は厚い雲がかかり暗く、とても寒々しい。
 しんしんと底冷えのする寒さに指先がかじかんで無意識に長い袖のなかにてのひらをしまいこむ。

「また熱上がるわよ」

 飽きもせずに空を見上げている雪路を見かねて、あきらが横から袿を押しつける。素直にうけとって袖をとおしている間に、ちらほらと白い欠片がちらついた。

「……降ってきた」

 一歩後ろに下がり端坐したあきらも同様に顔を上げた。ひらり、はらりと花弁のように舞う雪は、やがて音もなく雨のように降り注ぐ。
 まだらを描く白い色が、一面に広がるのにそう時間はかからなかった。
 真白の雪。
 あの日も、雪が降っていた。寒くて、恐ろしくてしようがなかった。
 脳裏に浮かんだ鮮やかな朱を振り払うように頭を振って、袖のなかに隠した拳に力を入れる。そして、ゆっくりあきらの方に身体を向けた。

「……桜と蒼牙は」
「円さんが治療しているわ。もう峠は越したから大丈夫だそうよ」

 雪路は胸の奥でせめぎあうわだかまりがひとつ減ったように思え、深く息をついた。
 あきらをうかがえば、勝気な瞳が安堵の色を宿している。
 少し痩せたが、そんなことは微塵も感じさせないよう気を配っているのだろう。疲労の様子がまったく感じられない。

(……もう良いんだ)

 これ以上、彼女に甘えてはいけない。

「……約束を守ってくれてありがとう」

 形の良い唇からつむがれた謝辞に、あきらは一瞬目を見張った。
 ――あたしは雪路を裏切らない。
 あの日、彼女が背中に傷を負いながらもきっぱりとそう言い切った。その時の声色や、真摯な眼差しは、いまでもはっきりと思い出せる。
 大事な少女が自分をかばって、深い傷を負って倒れ伏す。どんどん傷口から血があふれていく様が見ていられなくて。
 思わず手を伸ばしたその瞬間、深手を負っているはずの少女は素早くその手を振り払った。頑なに雪路が己の血に触れることを拒んだ。

『だめ。これは、ゆきには毒なの。さわっちゃ、だめよ』

 まだ十を二つばかり過ぎた少女が負うには重い傷を負って、あきらの方が怖いはずなのに。自分の血は雪路の血を穢すといって聞かなかった。
 ぎりりと自分の肩に爪を立てて気を失わないように務めながら、肌色は青ざめ、土気色にかわっていく中、瞳の強さだけは失わずに。

『大丈夫。一人にしないわ。ゆきは一人じゃない。あたしは、』
「あたしは雪路を裏切らない」

 久しぶりに聞くその言葉はあの時よりいくぶんか落ち着いた声色でつむがれた。

「……私は死ぬつもりだったんだよ?」
「知ってるわ。だけど、あの子達を見て変わったんでしょう?」

 今頃典薬寮ですやすやと眠っているであろう妹とあきらの弟を思い、雪路は苦笑した。
 幾度希望が打ち砕かれても、懸命に前を見据え、生きようともがく。
 自分の気持ちと向き合うことを極力避け、妥協すること、諦めることに慣れてしまった雪路にはどれも縁の遠くなってしまった感情だった。
 しかしこれから生きていくとなれば、少しずつ取り戻すことになるのだろう。
 そっと胸を抑える。一族を苦しめる禍鬼は消し去り、最もその毒がまわっていた雪路の身体からも、わずかばかりの毒を残し天命が延びた。

「もう大丈夫ね?」

 いつの間にか立ち上がり、雪路と向き合うようにしたあきらが問いかける。

「ああ。君や義母上、桜達がつなぎとめてくれた命だ。大切にする。…どう大切にするかは、ちょっとまだわからないけれど」

 言わなくてもいいものを、つい情けない言葉をつけくわえてしまう。
 けれど親しい人にはなるべく素直に接したいし、偽ってもしょうがない。

「相変わらず自分に関しては自信がないのねえ」

 腰に手を当ててやれやれと首を振る。それでもこうして前向きな言葉が出たのだから、大進歩である。
 その時、山から下りてきた風にあおられてしんしんと積もっていた六花が舞い上がる。
 白い鳥の羽毛によく似たそれは廊に吹き込んで雪路の頬をするりと撫でた。 

(きっと、もうこんなふうに話すことはない)

 予感めいているが、確信にちかい感情につきうごかされ雪路は目を伏せた。そうして、小さく頭を下げる。

「あの時、怖がらせて…、泣かせてごめん」

 あきらはきょとんとした顔で雪路を見つめていたが、ややあって腑に落ちたよう眉を少しひそめた。
 思い出せば辛いからと勝手に仕舞いこんで今日の今日まで話題をさけていたのは雪路だ。
 父親が死んで、義母が宮を追われた際に、雪路は錯乱状態におちいりかけてあきらを無理やり抱こうとしたのだ。
 幸い龍彦が間に入って止めてくれたものの、あれがなかったらどうなっていたかとおもうと全身から血の気がひいていくような心地がする。

「……こっちこそ、ひっぱたいてごめんね」

 もっと上手い返しはなかったのかと自分を恨めしく思ったが、あきらは頭をあげるよう雪路を促した。
 一国の皇帝が一介の女官に頭を下げる光景など見られたら大騒ぎである。

「ほら」

 あきらが右手を差し出せば、雪路もおなじように手を伸ばして自分よりも一回り小さい手を握る。
 前から決めていたこととはいえ、いざ時が来ると上手い言葉が見つからない。だからあきらは精いっぱい明るく笑う。そうすればつられたように雪路が柔らかな笑みを浮かべた。

「雪路といられて楽しかった。ありがとう」

 まるで異国のあいさつのように握り合った手をぶんぶんと振ればやっと雪路が小さく声をたてて笑った。
 当然のようにお互い指の先までかじかんでいるので、てのひらの熱が心地良い。少しだけ、離しがたいような気持ちになった。
 それを気取られぬように雪路はそっと指をほどく。
 あきらはきりりと眉を引き締め息背筋を正した。

「行くわ」
「ああ」

 頷けばあきらは一礼して雪路の横を通り過ぎる。
 ちらり。ちらり。舞いおちる白い欠片の向こうに去っていく背中を目に焼き付けるよう見つめてから、雪路も奥殿の方へ足を向けた。
 その横顔はいつもの彼を見慣れているものが見れば仰天するほど、晴れやかなものだった。
 お互いの足音はゆっくりと遠のき、やがて静かに降る雪の音にとけていく。
 歩みを止めないまま、前を見つめたまま、二人は心の中でそっとお互いに呼び掛けた。

 ――また、ね。

 ここから先はひとりで歩いていく。
 けれど私たちは、決して一人じゃない。

 だから、


 今日はこれでさようなら。

fin.
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