忍者ブログ
シュアラ編中心サイト。
最新コメント
[01/22 小春]
[01/21 梧香月]
[09/12 日和]
[09/12 梧香月]
[09/12 日和]
プロフィール
HN:
沙羅の語り部
性別:
女性
自己紹介:
沙羅ノ国。一般的には「シュアラ」の呼称がつかわれている。
帝と巫女姫が執政を行うこの国の、雅で切ない物語。名無しの語り部が語るとしよう。
[105]  [104]  [103]  [102]  [101]  [100]  [99]  [98]  [97]  [96]  [95
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

カルミノに行く道中。
円を加えたカルミノ編習作。
さあ、何が起きるかお楽しみ。

◇ ◇ ◇

 もっとも恐ろしいことは、なに。
 伸ばした手が、届かないこと。



 カルミノはグランドル大陸の北側を治める緑豊かな大国である。内陸中央よりやや東に位置する首都ライオネルはコーンウォール港から3日ほど馬車を走らせなければならない。
 窓の向こうに広がるのどかな田園風景を、その少年は睨みつけるようにして眺めていた。
「眉間の皺とれなくなるぞ」
 からかうような声音にぴくりと眉をひきつらせ少年は鼻を鳴らす。
 癖のない黒髪がさらりと揺れて不機嫌を彩る黒曜の瞳が車内に向けられた。
 向かい合うように設けられた席には手前に少年が、その対角線上に青年期を脱したばかりのような若い男が座っている。
 ざんばら髪は朝日をうけて金に輝き、茶目っ気たっぷりの瞳も同じ色合いだ。白衣を羽織り、茶化すような表情を浮かべている。
 少年は舌打ちをして再び窓の外を見ようとした。とにかくこの男を見ていたくないのだ。しかし小さな咳が耳に入って、少年は無意識に男の膝の上へ視線を滑らせた。
 男の片方の膝に頭を預けている小さな少女が、こんこんと控えめな咳を繰り返す。大陸では珍しい長くたっぷりとある袖で口元を覆って、肩を震わせていた。肌は青白く、艶やかな黒髪は汗で乱れて額や首元に張り付いて、一見して少女の体調が悪いことが分かる。
 ふるりと長い睫が大きく震えて、瞼がのろのろと動き、柔らかな色合いの琥珀の瞳が現れた。
「蒼牙…くん……」
 少女は少年の不機嫌な瞳をとらえると困ったように微笑んだ。
「慣れない乗り物に酔ってしまっただけですよ…?」
「あんた馬鹿? 乗り物酔いで咳は出ないんだけど」
「うにゅ」
 少年の刺々しい態度に、少女は小さな体を縮こませた。見かねた男がごつんと少年の頭に拳骨を落とした。
「こら蒼牙、桜ちゃんに気を遣われてどうする。――姫、あと30分ほどでクラウス公爵の屋敷に到着します。ご辛抱ください」
「はい。わかりました。あの…さっきよりは随分楽なんです。円先生のお薬が効いてきたみたい」
 気遣わしそうに蒼牙を見つめていた桜は、嘆息すると男を見上げて淡く微笑んだ。円はからりと笑って桜の頭を撫でる。
「それはよかった。んじゃ、もう少し眠っていなさい」
 その言葉に素直にうなずいて、桜は再び瞼を下ろして眠り始めた。相変わらず寝付きがいい。
 身体がもともと弱いせいもあるだろうが、この少女は大変聞きわけが良い。年は蒼牙より二つほど下で、いま十二歳だが、愚図ったり、我儘を言ったりして人を困らせたことが全くない。
 生まれやそのほかの事情から、とにかく、「迷惑をかけないように。失敗しないように」振舞っているからだ。
 円がかけた上套が小さく上下するのを見つめながら、蒼牙は嘆息する。
(……痩せたな)
 もともと体の弱い主君にこんな長旅は負荷がかかりすぎるのだ。
 海を渡った大陸は故国とは気候も寒暖の差も大きく異なる。案の定異国の空気に馴染めずに桜は体調を壊してしまった。
 けれどその一方で、シュアラから離れて広がる美しい景色に、桜は目を細めて喜んだ。
 巫女として国中を巡礼することはあれど、月の半分は後宮か神殿で静かに暮らすことが彼女のライフスタイルである。自由が全くない拘束された世界しか知らない。だから、きっと外遊は喜ばしいことなんだと思う。そう、ただ招かれるだけならば。
 桜はこの外遊に強い使命感を抱いて望んでいる。それが気負いとなり体調不良に繋がっているのは明らかだ。
「面倒なこと頼みやがって…あの腹黒帝」
 蒼牙は自分の懐に仕舞い込んでいた小さな桐箱を取り出す。そして、桜の長兄にあたるシュアラ帝に悪態をついた。

 友好国のカルミノから大園遊会の招待があったのは半年前だ。
 招待状には、国王夫妻の一人娘エルザ王女の15歳の誕生日会を開き、そこで彼女の立太子を内外に発表するという内容が認められていた。そして最後に付け加えるかのように、その園遊会でエルザ王女の伴侶を選ぶ旨が記されていた。これこそ最大重要事項だと思うのだが、おまけのようにぽつりと。
 大陸最大の虚宴(フェスティバル)にシュアラから皇帝の名代として選ばれたのは帝の妹宮、現斎宮の桜であった。
 極東に位置するシュアラでは政治を皇帝、祭祀を斎宮が執り行い、事実上この二つが国家最高権力である。
 序列から言えば皇太子である東宮が赴くべき公務だ。しかし今上帝は斎宮を名代と定めた。
 いくらカルミノからの強い希望からとはいえ、斎宮(大陸では巫女姫と呼ばれる)は祭祀王として他国の皇帝と同列に扱うべき身分である。しかもこれまでの歴史で斎宮が外国に出た例はない。そのことから今上帝こそが渋ると蒼牙は思っていたのだが、何故か彼は二つ返事で斎宮外遊を決めてしまった。
 理由は二つ。ひとつは東宮が東南地方の国守の祝言へ出席する約定が先であったこと。これは先の大戦により緊張状態に陥っている地方に皇家の威信を示す重要案件だ。ふたつめは「巫女姫」を大陸諸国に知らしめることで、シュアラの国力を示すことに繋がること。そして、その理由をあげたあと、雪路は桜に〝命〟を下した。
『カルミノにある〝災厄の石〟。それをこの世界から抹消せよ』
「魔力の石の破壊なんて……」
 ぽつりとつぶやいた蒼牙の言葉を拾って、円が苦笑した。
「ゆきちゃんも考えあってのことだろうさ。こうして主治医の俺も着いてきてるんだから安心しろよ」
「……」
「あ。たよりねーとか思ってるだろー。お兄さんこう見えて昔は……」
 抑え目のトーンで高らかに語り出す男に、ため息を返す。
「はいはい。耳タコ」
「あ、可愛くない」
 青年期を脱したばかりの男が頬を膨らませる光景は、はっきりいって気持ち悪かった。蒼牙は再び窓の外へ視線を投じる。そんな蒼牙を無視して、円はぺらぺらとしゃべり続ける。
「しかしクラウス公爵の次男坊と友達とは少年やるねぇ」
「別に」
「クラウス公爵家といえば王家に連なる名家。国王からの信任も厚いって評判だ」
(当たり前だ。こっちだってそれ目当てで近づいたんだから)
 小さく息を吐いて、蒼牙は口端を釣り上げた。
「あっちも同じこと思ってんじゃない? シュアラの皇家一の守り手、海神家とお近づきになれたんだから。しかも、巫女姫を警護してな。カルミノもシュアラと同じ太陽神信仰国。おつりがきてもたんないっしょ」
 円は肩をすくめてから蒼牙の頭をたたく。まるで駄々っ子をあやすかのような扱いに、蒼牙が眉間の皺を深める。
「こらこら。まだ14のくせに、そんな顔すんなー?」
「俺は元服して二年経つんだけど」
「そんなんまだまだガキさー」
 ぽん。ぽん。とあやすように撫でられて、蒼牙は不愉快そうにその手を払いのけた。
「桜の立場が有利に働くんならそれでいい。新しい友達とかいらない。必要もない」
 きっぱりと言い切って、円がそれに言葉を返す前に御者が朗々と告げた。

『クラウス侯爵のお屋敷が見えて参りました』

 告げられた言葉に、二人は顔を上げる。のどかな田園風景は消え、なだらかな丘陵地に変わり、白い城壁が小さく見えていた。
 蒼牙はこくり、と喉を鳴らす。いつの間にか目を覚ましていた桜は、大きく息を吸って、吐いた。
PR
Comment
name 
title 
color 
mail 
URL
comment 
pass    Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
コメントの修正にはpasswordが必要です。任意の英数字を入力して下さい。
管理人のみ閲覧可   
Template by Crow's nest 忍者ブログ [PR]