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シュアラ編中心サイト。
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プロフィール
HN:
沙羅の語り部
性別:
女性
自己紹介:
沙羅ノ国。一般的には「シュアラ」の呼称がつかわれている。
帝と巫女姫が執政を行うこの国の、雅で切ない物語。名無しの語り部が語るとしよう。
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悠とがーちゃの友情譚。






 怜吏さん曰く、『レテの河』というものがあるらしい。
 古代ギリシア人の一部に信じられていた忘却の河。死者があの世でその水を口にすると、現世での出来事を忘れ去るという。産まれ来る次の現世のために。
「僕達はその水を飲み忘れたのかもしれないね」と言われた時、思わず海神と一緒に納得してしまった。
 ぼんやり夢に見るようになったのが3つの頃。幼稚園で海神と再会した後だんだんはっきりしていって、小学四年生の時にはなるほど前世の記憶かと認めざるを得なくなった。きっかけは海神も記憶があると知り、互いに共有している記憶に間違いはないかと3時間ぐらい公園で語り合ったことにある。散々たしかめあったあと、あたし達はため息をついた。
 なんでお前なんだ。
 全く同じタイミングでこぼしてから、舌戦の大嵐。記憶のないあきらお姉ちゃんから見れば仲良くじゃれあっているように見えたらしいがとんでもない。あきらお姉ちゃんを真ん中にして手を引かれながら、あたし達は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。


「蓮兄、全寮制なんだ」
「まあ蓮らしいよな」
 お隣の幼馴染ということで、大抵あたし達は一緒に登下校をする。同級生にからかわれるが、適当にあしらって終わり。前世の記憶がくっきりあるのも困りもので、可愛らしい小学生というものに自分はどうもなりきっていないらしい。大人と子どもの意識が混在して、どうにもやりにくい。
 海神は必要最低限の切り替えができているのだが、あたしはそう器用な方じゃあない。それがちょっとストレスだ。
「あきねえは、記憶戻んないんだね」
「記憶はないけど、無意識に引きずられることがあるみたい」
「なにそれ」
「おれ、この前おたふくにかかったろ」
 自然目がすわってしまう。そう目の前のこいつがおたふくにかかったせいで自分も移ったのだ。熱っぽいなーとかいいながら宿題を一緒に片付けたせいで。早く気付いていたら半径100メートルは近づかなかったものを。
「そんな怒んなよ。いいじゃんさっさとなれて」
「うるさい。……で? 続けろよ」
「ああ。別におたふくなんて死なない病気だろ? だけど姉さんが泣くんだよ」
 蒼牙、胸は痛くない? 苦しくない? お姉ちゃんがついているから。
 そういって寝ずの看護をしたせいであきらお姉ちゃんの方がダウンしてしまったらしい。今生では特別身体を鍛えているわけではい、ごく普通の女の子だ。当たり前である。
「海神が死んだ後、大変だったから。おまえ、知らないだろうけど」
「こうなるなら、病のこと言っとけばよかったかなーってはじめて思った」
 ようは前に最愛の弟に先立たれたのがトラウマとして根付いてしまったらしい。おたふくは別に胸の病じゃない。けれどそう口走ったのは、無意識下で弟が胸の病で早逝したのを気に病んでいるからだ。
 きゅう、と胸が切なくなる。あきらお姉ちゃんは、とても長く生きた。弟が死んで、夫が死んで、息子が死んで。あたしも、先に逝ってしまった。だから、今生で記憶がないのは、かえって良いのかもしれない。
 年下のあたしが言うのもなんだけれど、今生のあきらお姉ちゃんは前よりも柔らかくなって、すっごく素直で可愛らしい中学生だ。料理はまだまだ修行中というけれど、ふつうに美味しいし、家事もきちんとできる。明るくて、前によく感じていた寄る辺がなさそうな痛々しい雰囲気などどこにもない。年上にはかなりの甘えたがりで、なによりも、泣き虫だ。たぶん、前世でも本質はそうだったのだろう。
 二番目の兄が全寮制に入ると聞いて、やはりあきらお姉ちゃんは泣いてしまったという。でも、我慢されりよりはずっと良いとあたしは思う。
「蓮兄、高校で見つけられると良いな」
 誰をと言わなくても通じた。海神はむっつりと頷く。
「まあね。てか俺らもだからな」
「分かってるって。けど、ブログもmix●もF●ceb●okも駆使した甲斐なかったな」
 何が情報社会だ。しかも親にFacebookを使っているとばれてさんざん怒られた。あきらお姉ちゃんにも「怖い人に利用されたらどうするの」と言われた。物心ついた頃からなんとなく武芸全般を極めたあと、ヌンチャクと棒術にはまり込んだあたしだが、熱くなりすぎて師範を病院送りにしてしまい破門という経歴があるので、多少の変質者は撃退できる自信がある。あるが黙って謝った。
 海神もあたしと同じように武芸全般を極め、とりあえず剣術道場に通ったが同じく師範を病院送りにして破門。いまは古武道に専念している。
 その時のことを語るとき、お互い小学生でよかったなとしめくくるのが通例となった。多分高校生ぐらいだったら殺してしまっていたかもしれないのだ。
 それでもやはり物足りなさを感じる上にお互い上流階級の子どもならば誘拐なんてこともありうるので、 適当な空き地を見つけてはチャンバラごっこという名の鍛錬を欠かさないのだが。
 そして今日もその鍛錬の帰りである。駄菓子屋で買ったラムネで喉を潤しながら、なんとなしに土手に座ってだべっていた。
 そういえば、とあたしは呟いた。すると、横でビー玉を取り出そうとしていた海神がこちらを見る。
「なに?」
「今日から女の子を一人預かるんだ」
「行儀見習い?」
「うん。お姉さんがうちに入院してて、おばあさんともお父さんが知り合いらしいから」
 ふうん、と返して海神は首を傾げる。
「いくつ?」
「二歳だって」
「まだ赤ん坊じゃん。早く帰った方がいいんじゃない」
 確かにそうだ。年の近い自分がいたほうがぜったいに良い。すっかり忘れていた。ほっぽっといたランドセルを背負って、家路を急ぐ。
 並んで走りながら、スマホを取り出す。16時40分。門限まで20分を切っていた。
「急ごう。門限破りになってまた怒られる」
「小学生って面倒くさいよな」
 ぶつぶつ互いに文句を言いながらも足を速めた。17時には家にいなくてはならないという決まりでは、遠方に出向いて探し人を求めることもできやしない。
「本当にめんどうくさい」
 中学生になれば少しは緩和されるのを期待しながら走る。やたらめったら一軒一軒の敷地が広い住宅街に入るとすでに5分を切っていた。一分前にはお互い玄関前につけそうだとラストスパートをかけた瞬間。
 吐息のような風が、するりと頬を撫でた。温かくて、どこか懐かしい風だった。
 なんだろうと首をひねりながら、角を曲がる。もう家は目の前だ。
 だが、あたしと海神は同時に足を止めた。スピードが出ていたのでたたらを踏んだがどうにか体勢を持ち直して。
 篠田家の玄関前に、あきらお姉ちゃんが立っていた。驚いたのはそこではない。あきらお姉ちゃんは、蜂蜜をたらしたような髪の毛を可愛らしくリボンで結った小さな女の子を抱き上げていたのだ。
「……篠田」
「……金髪なんてどこにでもいるよ」
 といいながらも、声は震えた。お前先行けよ。いやお前がと押し問答を繰り返すうちに、17時を告げる鐘が無情にも鳴り響く。
 それと同時に、あきらお姉ちゃんが振りかえった。腕の中の女の子も、こちらを見る。
 その女の子の瞳は、遥か高い蒼穹を思わせる、碧い瞳だった。そうして、笑ったのだ。
『悠』
『蒼牙』
 玉響の呼び声。よぎる残影。気がつけば、のろのろと自分達は歩み出していた。
「悠、蒼牙、お帰り」
 腕の中の女の子はきょとんとあたしたちを見つめて、言った。
「あきおねーた、だあれ?」
「悠ちゃんは華音ちゃんがお世話になるお家のお姉ちゃん。こっちはあたしの弟の蒼牙よ」
 仲良くね。と無邪気に笑うあきらお姉ちゃんは心底楽しげだった。しかし、あたしと海神は止まりかけた思考をむりくり動かし、ぎこちなくお互いを見やる。
「……蓮兄って、いくつだっけ」
「……今年で、17」
「…………15歳差って犯罪じゃね?」
「…………ていうかコレ見たらさらいそうで怖い」
 どうしようか。どうしよう。小声で囁き合うあたしたちを、華音ちゃんはじいっと見ている。
「ゆーう? がーちゃ?」
 愛らしく呼びかけられて、思わずほおが緩んでしまった。多分隣の海神も同じことを思っていることだろう。

『……蓮兄を犯罪に走らせないようにしなければ』と。

 その後、盆休みに蓮兄が進路を変え、あきらお姉ちゃんが予想より早く結婚してしまうなどなどの騒ぎがあり、あたし達は探し人どころではなかった。結局、お互いの願いが成就したのは、中学二年生の修学旅行だったのだ。

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