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プロフィール
HN:
沙羅の語り部
性別:
女性
自己紹介:
沙羅ノ国。一般的には「シュアラ」の呼称がつかわれている。
帝と巫女姫が執政を行うこの国の、雅で切ない物語。名無しの語り部が語るとしよう。
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色々遊んでみました。京都組中心。らーちゃとがーちゃが再会するまでになるはず。(150106)


 この世界がまあるい硝子玉の中にあると言ったら、何人の人が信じるだろう。しかも、その硝子玉にはヒビが入っていて、その歪みの数だけ世界があるのだと。
 銀髪の女神さまはヒビ割れた硝子玉が浮かぶ泉に私を連れて行った。明るいような、暗いような、ただ辺り一面に咲き誇る白い花がまばゆい。
「ちい姫、ご覧。あれが夜。そして昼」
 促されて見上げると乳白色の空間にぽっかり空いた二つの穴。それぞれに月と太陽がくるくると回っていた。
 地につくほどある白銀の髪をうっとうしそうに払いながら、女神さまはバツの悪そうな顔をする。
「これはわたくしがヒビをいれてしまった。修復はきかない。おかげでさんざんだ」
「……でも」
 白い光と、まろやかな空気に抱かれ虹色に輝く硝子玉のヒビは醜いものには見えなかった。むしろ、
「綺麗」
「……お前は昔の私にそっくりだ。……私はお前なのだから当たり前か」
 曖昧に微笑んで、頭を撫でられる。目の前の美女から聞かされた話は難しくこんがらがっていたが、私はなんとか理解できた。
 女神さまは神さまとしての私。女神さまがいらないとお捨てになった人間の部分が、桜という女の子として生まれたのだという。
 人間として生きるには魂が傷ついていたから、本当はもう少し眠っているはずだったのだけれど、目の前の女神さまが呪いを受け身動きができない状態になり、女神さまも知らないところでころりと生み落とされたらしい。おかげであの人や、沢山のかけがえのない人が出来たから、私はとても幸せだったのだけれど。女神さまが危惧していた通り、やはり長生きができなかった。
 女神さまは見たほうが早いと特別な鏡で魂の傷を見せてくれた。私は他人事のように、よくもまあこんなにぼろぼろになるものだと思ってしまって。その通りに言ったらさもありなんと女神さまは麗しく笑い転げた。
 今度こそ眠りについて傷を治そうと言われて、私は尋ねる。
「どのくらい眠るのですか」
「私がまばたきを三回する程度」
 眉をひそめれば、女神さまは少し思案気にした。
「お前という意識だけ残して、魂だけを眠らせれば、一回ぐらいで済むかな。代わりに働いてもらわなければならないけれど」
 一人でひたすら眠るのは嫌だったので私はその提案に飛びついた。
 ーーが、すぐに後悔した。この女神さまはとんでもなく気まぐれで、ひどい怠け者だったのだ。
 おかげさまで、これ幸いとくつろぐ女神さまの代理で天上を駆け回り、果ては地上に降りて託宣をくだしたり迷った魂を黄泉までおりて明け渡すようなことまでやらされた。でも、頑張れば普通の女の子としてこだわりなく生きていけると自分を叱咤してあくせく働いた。
 中つ国で聞いていた神語りとはかなり違う神様とも仲良くなりお茶を共にするというかなり貴重な経験もできた。
 そろそろ良い星回りだから一度転生しなさいと言われ、ああやっとと思ったのだけれど。

『――手術に、お嬢さんが耐えきれないかもしれません』
 朦朧とする意識のなか、その言葉は水面に広がる波紋のように響いた。
(女神さま、話が違います)
 いや、違う。あの人は一言も健康な身体、普通の人生をあげるとは言わなかった。
 どうして女神さまは、私という人間に平凡な毎日を与えてくださらないのかしら。大財閥会長の末の孫娘。懐かしい顔ぶれの異母兄が2人。母も父もいるが、しょっちゅう海外出張でいない。良かったと思えた点は、祖父が三度目の結婚で京都に囲っていた藤宮のおばあさまと夫婦になり、二人に可愛がって貰えることだろうか。前世ではついぞ堪能できなかった肉親からの愛情をはじめてゆっくりと味わえた。
 これだけで幸せと思って残り少ない時間を過ごす?
 自分に問いかけると、脳裏にひらりと群青の衣が舞った。初夏の風をうけて黒髪が舞う。少年は振り向かない。ただじっと草原に立ち尽くしている。やがて、細かな雨が、少年の華奢な肩をしめらせて。
 声は届かない。伸ばした指は触れられない。
 うっすらと目蓋を上げると、傍にいた叔母が真っ先に気付いた。
「受けます」
 力を振り絞って囁くと、叔母は力強く頷いた。
 ここで終わらない。終わらせない。女神さま、天命は操れないとあなたは仰った。けれど、普通に生きていたってある日突然死んでしまうこともある。皆五分五分だ。ならば、諦めるよりあがけとも言ってくださった。それがなによりの命の強さだと。だから私は自分の命にかける。そして、叶うならーー。

 峰にうっすらとかかる白雲を仰ぎながら、庇でうんと伸びをした。まるで名残の雪のようだ。
「お姫ー」
「九重、その呼び方はやめてと言っているのに」
 奥から軽い足取りで近づいてきた友人を桜は睨めつける。
「お嬢だとなんだか違う雰囲気になっちゃうじゃん」
 からからと軽い調子で笑うこの少女。実は年齢不詳である。再会した時、昔と変わらぬ忍び装束を纏っていたので、我が目を疑った。本人はコスプレじゃあないよとか言っていたが、そこではない。昔とまったく変わらずに術を放っていたのだ。
『あたし生まれ変わってないもん』
 みんなには秘密ねとさらりと言われて戸惑った。聞けば普通に年をとっていけるし、首を切られれば流石に死ぬから不老不死ではないらしい。
 どうしてそうなったのか。いつも傍にいた影の少年はどうなったのか。それは教えてくれなかった。のらりくらりとかわして要領を得ない。私も色々やっていたから、人のことは言えないけれど。
「で、どうしたの?」
「ああ。お姫、四月から東京じゃん? 入学試験の結果教えにきたよん」
「ふぇ」
 青葉に見える梢から九重に視線を移すとチェシャ猫のような笑みとかちあった。その手には開封済みの封筒が。
「あっひどい!」
「ひどいとは失敬なー。家庭教師サマですよあたしは。それについてくんだから、お姫の結果は重要なの。編入試験難しかったんだからー」
 全国模試で常に一位、しかも彼女が見た目小学三年生の時に「暇だから」という理由のみで年齢詐称(?)をしてハーバードに一発合格する天才が、帝都のトップクラスの私立に編入するぐらいわけないはずだ。
 膨らませた頬をつつかれながら紙を開くと、合格の2文字が。思わず顔を綻ばせるとぎゅうぎゅうと抱きしめられた。
「あーあー。お姫を独り占めするのは終わりかぁ」
「九重、あのね私は」
「はいはい。この中学なら、国際交流と語学に力を入れてる大学付属高校の推薦貰いやすいから選んだんだよね? 現在進行形で探してくださってる豆王子に会うためじゃないんですよねーわかってます」
 肩をすくめて九重は床に寝そべった。洛外の山奥にある社の母屋にも、ようやく春めいた風が吹くようになって、一気に庭は芽吹いていく。
 均等に刈り取られた草は梅雨を含み、柳桜は糸が乱れるように静かに揺れて池に花びらを落とす。池の浮き草と花びらがゆうらりと波を漂い、錦を晒しているかのようだ。
池の浮島に生えた松に掛かった藤が裏紫に咲いた時、自分たちは東京にいる。
岸の山吹が咲き乱れる様も、今年は見れないのかしら。
「ゴールデンウイークがあるじゃん」
「新幹線、高いもの。それにきっと勉強しなくちゃ追いつけない」
「お姫は頭悪くないよ。効率を覚えればすぐ伸びる。ま、それはおっつけ東京で教えてあげる」
 たなびく雲の切れ間から聞こえるほととぎすの一声。に紛れて地鳴りのようなエンジン音が二つ聞こえてきた。
「お、来たきた」
「?」
 九重は起き上がってぱんぱんとキュロットを叩いて、私に手を差し伸べる。
「あらたんとばなたんとで、お互いの卒業祝いと合格祝いしよって決めたんだ」
「えっ?」
「四人揃って東京進出じゃん。気合い入れて京都楽しんじゃおう!」
 それに学校に合格報告しないと、と言われ私は慌てて制服に着替えた。私服でも良いのに、と言われたけれど、学校内に私服で入る勇気はない。あがり框でヘルメットを抱えて談笑する双子の従兄弟に、そっと笑みがこぼれる。
「兄さま方、私受かりましたっ」
 小走りで近付いて二人に抱きつく。これも、前にはなかなかできなかったことだ。双子の兄である橘は、病み上がりなのだから走るなと怒り、弟の新は柔らかく抱きしめ返しながらまあまあと兄をなだめる。
「体調は大丈夫なのか?」
「はい。卒業式には出られそうです」
 橘はほっと息を吐いてから、髪のリボンが曲がっていると直してくれた。まだ物心つくかつかないかの頃から、お兄さまが髪を三つ編みに編んでくるりと輪っかを作って結び目をリボンで括る髪型が定着してしまっている。東京に行ったら少し違う髪型もやってみたい。
「退院したらバイクにのっけてやるって約束したもんな。ほい、桜専用ヘルメット」
 ピンクのヘルメットを差し出されて、期待に胸が膨らんだ。
「新兄さま、ありがとうございますっ」
「よっしゃばなたん。あたしに風を感じさせる走りで頼む」
 すでに橘のバイクに乗り込んだ九重が勝手知ったる様子でエンジンをかけた。
「なんでてめーちゃっかり乗ってやがんだよ」
「四の五のいわないではよせい。あ、事故ったら慰謝料貰うから」
 橘はぶつくさ言いながら九重を後ろに乗せてスタンドを蹴る。それに続いて新も桜を乗せてキーを回した。
「しっかり掴まってろよ」
「はいっ」
 そうして仲良く二台続けて舗装されきっていない山道を下った。ぼこぼこ揺れるのが楽しくて、はしゃぎ声まであげてみた。お兄さまが見たらきっと卒倒しちゃうかもしれないけれど、嬉しいのだから仕方がない。まだお昼前の太陽が眩しかった。
 ーー東京に行く。
 前世の記憶があってもなくても、中学からは東京に行くと決めていた。今の私には夢がある。まだ、叔母と九重、そして双子の従兄弟たちにしか言っていないけれど。
 それなのに東京行きに内心戸惑っている理由は、あの人がいるから。いつでも全力で私を守ってくれて、添い遂げた人。あの人の想いを、前の私はゆっくり糸を手繰るように自覚していった。あの人が、私の、すべてだった。
 でもそれは、紫鳳院桜のことじゃあない。会いたい気持ちはある。けれど怖いのだ。だって、私は、今の私はあの人に恋なんてしていない。兄づてにあの人は私を探していると聞いた。どうすると聞かれて、言わないでと頼んだ。逃げたのだ。
 探さないで。
 見つけないで。
 あの人が探している女の子が、かつて皇女だった私だと言うのなら、今の私を、見てくれなかったら。そうしたら私は、生きていけない。手術前後はあんなに気を強くもっていたのに、この心の弱さはどうしたものだろう。何故私はこんなに怖いんだろうか。
「お姫?」
 狭かった視界が急に開ける。ぐるぐる渦巻いていた思考から急に汲み上げられて、私はしばらく固まってしまった。目の前の九重が瞬きをする。
「酔ったか?」
 ぽふ、とグローブ越しに頭を撫でられてやっと我にかえる。
「だ、だいじょうぶです」
「いま下加茂神社あたりだけど、湯葉鍋食べられそう?」
 はたと辺りを見回してから、新兄さまにしがみついたままだったことに気付く。慌てて降りようとしたら、その前に両脇を抱えられてすとんと地面に降りた。
「てめぇさりげにグレード上げてんじゃねえよ。豆腐鍋っつってんだろうが」
「良いじゃん。ケチ。若者なのにどーして豆腐なわけ? 肉出せないなら湯葉出しなよ」
 きゃんきゃんと言い争う二人に唖然としていると、新兄さまが慣れた様子で仲裁に入る。今の時期はどこも混んでいるから弁当を頼んどいたと新が言うと九重は顔を輝かせた。
「あらたんてばなんて良い子なの! ばなたん、弟に感謝しなさいよー」
「八瀬って店に四つ頼んどいたからさ。兄ちゃん九重と取ってきて。場所わかるだろ? 俺と桜、礼(あや)の杜で待ってるから」
「ああ。桜、気分悪くなったらすぐ新に言えよ」
「はい」
 ばたばたと去っていく二人を見送ってから、新兄さまに手を引かれて境内に入る。
「排気ガスすごかっただろ? でも東京行くならちっとは慣れとかねーとな」
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