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HN:
沙羅の語り部
性別:
女性
自己紹介:
沙羅ノ国。一般的には「シュアラ」の呼称がつかわれている。
帝と巫女姫が執政を行うこの国の、雅で切ない物語。名無しの語り部が語るとしよう。
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良い落とし所がみつからぬ。(150705)






「はやく、はやくいきなさい! ――!」
 躊躇う小さな背中を思いっきり押した反動で、床に思い切り叩きつけられる。
 背中の痛みに咽て、涙目になりながら、壊した格子窓を見上げた。気配が、辿々しく遠ざかって行く。
 息を整えながら、両手と両足を縛める鉄製の枷を忌々しく睨みつける。長い鉄の鎖がついていて、この部屋だけなら動き回れるが、中途半端な拘束に腹が立った。枷に走った印咒から、どんどん霊力と生気が抜かれて行く。
 その時。荒々しい足音が近付いて、蹴破られるように戸が開いた。
「――ガキが逃げたぞ! 追え!」
「この、小娘が……!」
 壁際まで跳びのいたが、ひどい眩暈に襲われて身体が傾ぐ。その隙に胸倉を掴まれて無理矢理床に引き倒された。口の中にじわりと鉄の味が広がる。
「はなし、――やっ!?」
 汚らしい手が無遠慮に袷の中をまさぐって身体が強張る。下卑た笑みを浮かべた男が一人、あきらの動きを封じるように馬乗りになっていた。他の二人も同じような表情で暴れる細い手足を抑えにかかる。
 肌着が無理矢理引っ張り出されてびりりと不穏な音が耳朶に届いた。嫌悪感が膨れ上がり、口を封じようと伸びて来た手を思い切り噛む。
「ってぇ! 黙ってろ!」
「い、たっ」
 素肌に到達した手のひらがまだ未成熟の乳房を思い切り掴む。余りの痛みに、ぼろりと涙が零れた。
 悪漢達に泣く顔は見せまいと顔をよじって唇を噛む。あの子が無事なら。無事に人里に降りたなら、きっと探しているはずのあの人に届く。
 悔しい。祈るしかない自分が不甲斐ない。眼を強く瞑って、奥歯を噛みしめる。
「おい、この肌、見てみろ。あんがい迷信じゃねえぞ」
「早くこっちにまわせよ」
 抵抗を諦めたとみて、男達は素肌を好き勝手に触れて来る。あまりのおぞましさに、震えが止まらない。
(やだ……)
 これから、どうなるのか。考えてはいけない。気持ち悪い。嫌。たとえようもなく怖い。
 このまま。四肢の自由を奪われたまま、好きでもない、ただ自分の身体が目当てなだけの男達に。
 男の手が腰紐を引きちぎり、あきらの耳元に顔を寄せる。
「身体つきは立派に女じゃねえか。せっかくの上玉なんだから、たっぷり可愛がってやらぁ。すぐよくなるからよ」
 すえた匂いとともに突きつけられた言葉が、恐怖の臨界点を突き破る。
「いやあ、っ」

 助けて。
 助けて。

 あきらの頭の中に浮かぶのは、只一人だった。


(義兄上、義兄上!!)


 刹那、戸がもの凄い勢いで弾け飛んだ。そこから、ひんやりとした霧が流れ込んでくる。涙に濡れた視界の中、あきらは、確かにこちらを見つめる青年の清冽な瞳を受け止めた。


 ※※※


「あきら!」
 焦った声色に引っ張られるように意識が覚醒する。目の前には、大好きな人。
 夢と現実の区別があいまいなまま、あきらは顔をゆがめて龍彦の首にかじりついた。龍彦は軽く目を瞠ってからつとめて落ちついた声色で尋ねた。
「うなされていたぞ。どうした」
「……っ、いや……こわい……っ」
 真っ青な顔色で、がたがたと全身を震わせながら、あきらはそれだけを繰り返す。
 尋常ではない様子に強く抱きしめるが、半分意識が悪夢に捕まっている少女はただ腕の中で頭を振る。
 龍彦は少し躊躇ってから、あきらの顎を固定して小さな唇を奪った。歯列をなぞって乱暴に舌を絡める。
「…っん、んぅ……っ」
 一瞬目を瞠ってから、あきらは龍彦に応えた。まるで、すがりつくように。  
 舌を絡め、吸い上げ、甘噛みする。龍彦の唾液を飲み込まされ、あきらのものも飲み下される。飲み干せなかった分のものが、溢れて。熱い、全身が蕩けてしまうような口付けに、頭の芯が痺れる。冷え切った身体に、温もりが戻ってくる。
「ん……っぁ……」
 吐息をする間も惜しい、というように角度を変えて深く、深く口内を犯される。酸欠でくたりと身体の力が抜けるまで、優しい責め苦は続いた。
 わずかに吐息を弾ませながら、ゆっくりと唇が離す。どこかうつろだった淡藍の瞳は光を取り戻し、珊瑚の唇は淫らに濡れていた。
「……大丈夫か?」
 ことさら丁寧に髪を梳ると、あきらはこくりとどこか恥ずかしげに頷いて、辺りを見回した。
 自分が今いるところがどこか一瞬分からなくなったのだ。ブルーグレイで統一された室内が、龍彦の寝室で、彼のベッドに横たわっていることに気付き、慌てて起きあがろうとする。が、肩を押されてぽすっと柔らかな布団の上に倒された。
「無理に起きなくて良い。まだ顔色が悪い」
「あたし……」
 緩慢な動きでかすかに痛む頭を抑える。一度、彼の部屋から出たはずなのに何故寝室に。
 糸を手繰るように記憶をたどって行き、ロビーでのことを思い出す。ナイフを持った男が脳裏にちらついて悲鳴を上げる前に口を手で抑えた。
「悠……、悠は? 怪我をしていない?」
「ああ。かすり傷ひとつも」
 その応えにほっとして、ゆっくり上半身を起こす。そして何気なく投げ出された左足を見て、ぎくりと肩を強張らせた。
 汚らしい指跡が、伝線したストッキングにべっとりとついている。さあっと血の気が引き吐き気を覚えた。龍彦が細い肩を引き寄せて、指先を握りしめる。
「すまん。勝手に脱がすのも憚られてな。替えはあるか?」
「あ……」
 壊れた時計のようにぎこちなくあきらは頷いた。彼が運んでくれておいたツートーンカラーのトートバッグから新しいストッキングを出した。
 一刻もはやく脱ぎ去ってしまいたくて、たどたどしい指遣いでパッケージを開けてから、龍彦を見た。
「あの……あっち向いてて?」
「大丈夫か?」
「大丈夫だからっ」
 そうかと龍彦は背を向けてサイドテーブルに置いてある本を開いた。気を取り直して、あきらは小さく息を吐く。
 しゅる、とかすかな衣擦れをたてながらストッキングを剥ぐ。跡の残った左足から抜いて、素肌には何も異常がないことを確かめる。けれど、掴まれた感触が、脳裏にまざまざと悪夢が蘇らせる。
「怖い夢、みたの」
 一人で溜め込みたくなくて、ぽつりと零す。龍彦は喋らない。
「たぶん……船、の中なんだけど……身動きができなくて……知らない男の人たちが、あたしを……」
 震えが走る。ただの夢にしては、リアルすぎた。いまさっきの出来事のように。
「痛くて、怖くて、逃げられなくて、あたし」
「もういい」
 ふわりと背中から抱きすくめられて、あきらは両手で顔を覆いながら静かに涙を零した。
「龍彦さん、呼んだの」
 細かく震える肩や背中を労わるように撫でて、そっと囁く。
「……遅くなって、悪かった」
 驚いたように顔を上げたあきらの白い額に、頬に、優しい口付けが降りそそぐ。涙を流しながらあきらは首を振り、彼にしがみつく。
「龍彦さんは、来て、くれたわ……」
 よく、あきらは先ほどのようにリアルな夢を見る。内容は数日経てば砂がこぼれるように忘れてしまうのだが。今回のようなおぞましい夢は初めてだった。
 けれどどんな夢でも最後はこの人が出てくる。手を差し伸べてくれる。現実でも同じだ。幼い頃から、ずっと。
「離さないでね……おいてか、ないで……」
「ああ」
 龍彦はあきらが落ち着くまで、しっかり抱いていてくれた。あやすように背中を撫でて、あきらの気持ちが鎮まるのを静かに待つ。
「あきら」
 柔らかく囁かれて、あきらは龍彦の腕の中で顔を上げる。一途に見つめてくる想い人の瞳は、潤んでかすかにきらきらと瞬いていた。
「龍彦さん」
 蕩けるような声。龍彦は愛おしそうにあきらの頬に指を滑らせ、そっと唇を重ね合わせた。角度を変えて何度もついばみ、徐々に口付けを深くしていく。
 あきらは求められるまま、たどたどしくも当たり前のように彼に応えていた。唇を食み、差し伸ばされた舌を受け入れ、絡ませあう。
 彼に求められることが、嬉しくて、愛しくて。なのに体の中心が切ない疼きを覚える。
 これは何かしらと頭の隅で疑問に思うが、龍彦に応えることにいっぱいいっぱいだった。
 濃密な口付けを交わしながら、龍彦は慣れた手つきで脱ぎかけのストッキングを細い足から抜き取った。素足にひんやりと外気が触れて、ふるりとあきらの肩が震える。
「もう、何も思い出すな」
 いつの間にかベッドに押し倒されていて、あきらは荒い呼吸を整えながらゆっくりまばたきをした。小首を傾げる許嫁が愛しくて、小さく微笑む。
「俺のことだけ見ていれば良いんだ」
 酸欠でもうろうとする意識のなか、あきらはずるいと思った。
 癖のない艶やかな黒髪、すっと通った鼻梁に、切れ長の瞳。そしていつも皺を刻んでいる眉。細身なのにシャツ越しでも分かる鍛えた身体。ただでさえ綺麗な人なのだから、こんな、蕩けるような笑みは、反則だ。もうとっくに、彼しか見えていないのに。
 もう何度目か分からない。ふたたび唇を塞がれて、あきらは龍彦の背中に手を回した。それが合図かのように、龍彦が唇を少しずつずらしていく。
「え……あっ……」
 おとがいからのど元へとゆっくり舌を這わせ、やわらかな肌に痕をつける。ぴりりと走った熱に身体が震えて、あきらはさっき感じた切ない痺れが増すのを感じた。首の後ろにあるキャミソールのリボンが解かれて、緩んだ胸元、鎖骨のあたりにまた熱が焼き付けられる。
「や……っ、んっ」
 無意識に胸元を隠すように身をよじって、あきらはかたく目を閉じた。
(このまま……しちゃう、のかな……)
 どぎまぎしながら、自分が望んだ結果なのだからと言い聞かせるけれど、やっぱり怖い。でも、愛しくて仕方ない人となら。痛いってきいたけれど、絶対彼なら優しいし。
(そ、そうよ。最初からそのつもりできたんだから!)
 真っ赤に顔を染めながらぐるぐる考えるあきらの真上から、小さく噴き出す気配がした。
「え?」
 ぱちりと目を開けると、顔を横にやって必死に笑いをこらえる龍彦の姿が見えた。
「な、っなんで、なんで笑うのっ」
 甘い雰囲気はもろくも崩れさり、涙目になりながらあきらは抗議した。
「いや、可愛くてつい」
「な、な、可愛かったなら、どうして笑うのっ」
 ひどいと暴れるが、いとも簡単に両手首を掴まれる。
「暴れると全部見えるぞ」
 その言葉の真意を測りかねて一瞬動きが止まる。あきらはうなじまで紅に染め上げてキャミソールを直した。蝶と花が舞うミントグリーンに黒のレースが縁取られた下着をみて、また泣きそうになる。
「可愛くなかった?」
「いや。似合っているが、いくら俺でも、体調の悪いお前をどうこうするほど飢えてない」
「き、キス以外にもなんかしてたじゃあないっ」
「処方箋。浮上したろ?」
 完全に身を起こしてベッドサイドに腰掛けた龍彦が口端を吊り上げる。
(しょ、処方箋って、浮上って!)
 衣服の乱れを直しながら、あきらは龍彦を睨んだ。いろいろ悩んだのが馬鹿みたいに思えてまた泣けてくる。
「……なし崩しに抱きたくない。お前だって、理想のようなものはあるだろう?」
 ぷくうと膨らんだ?に軽い口付けが落とされて、とくんと胸が鳴る。
「理想……?」
「これ。バッグから落ちていたぞ」
 サイドテーブルに置いてあった本……もとい雑誌が目の前に差し出されて、あきらは悲鳴をあげた。薄暗くてさっきは分からなかったが、それは友人に急かされて買った女の子の……いわゆるそういうコトに特化した雑誌である。ではさっき彼が読んでいたのは。
「ひどいっ! えっち!」
「随分な言い草だな。俺だって関係があるのだから、見ても差し支えはないだろう。協力できるし」
 悪戯が成功した子供のような笑顔を向けられて、あきらは悔しさに歯噛みした。だってその雑誌には付箋やらマーカーで線を引いたところやら、とにかく読み込んだあとがあるのだ。恥ずかしくてあきらは夢中で手を伸ばす。
「もう、かえしてっ」
「断る。大体、こんなものはいわゆる世間のテンプレートの塊で書かれているんだぞ。十人十色とよく言うだろう」
「そうなの……?」
 泣きそうな声色だった。そのまま許婚はしゅんと肩を落としてしまう。
「落ち込むことはないだろう」
「だって、あたしなんにも知らないんだもの」
 年の差は六つ。小さな頃は、頭が良くて優しい彼が頼もしくて、義兄として自慢だった。けれど、ひとりの男性として意識し始めれば、自分の幼なさや未熟な部分に焦りばかりが募る。彼の周りには綺麗な大人の女性がいて、ひっきりなしに告白してくるらしい。
「龍彦さんに釣り合う大人に早くなりたいの」
 涙交じりの声でいじらしく懇願する様子に龍彦は眩暈を覚えた。いったいなにを勘違いしているのやら。
「俺から教える楽しみを奪う気か?」
「へ……きゃあっ」
 背中に腕を回し華奢な肢体を引き寄せて、澄んだ淡藍の瞳を覗き込む。林檎のように染まった頬を優しく撫でて、そっと首筋を辿る。くすぐったがるものの、それだけではない未知の感覚に戸惑い、たちまち目元が赤らむ仕草が愛おしい。
「あ、の……?」
「さっきも言っただろう。俺だけを見ていれば良いと」
 まだ何も分からず、誰も知らない、無垢で柔らかな少女。壊されないよう守ってきた宝。それをゆっくり暴いて味わい、花咲かせるのは自分だけ。
「お前は俺が女にする」
 耳元で囁くと、あきらの肌に熱が灯る。龍彦の意図を大体察した許嫁は無言でおとがいを動かした。
「ずっと前から、お前は俺の花嫁になる約束だったろう?」
 額に唇を落とせば、あきらは花開くように微笑んだ。
「うん。絶対に、そばにいる」
 どこにも行かないわ、と想いが通じた日と同じ言葉を紡いだ。そうすれば、龍彦は柔らかく笑う。あきらだけが知っている、極上の笑顔だ。
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