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プロフィール
HN:
沙羅の語り部
性別:
女性
自己紹介:
沙羅ノ国。一般的には「シュアラ」の呼称がつかわれている。
帝と巫女姫が執政を行うこの国の、雅で切ない物語。名無しの語り部が語るとしよう。
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※※未完習作です※※
聖蘭邸が出てきます。こここうだぜ! ってところはばしばしいってくださいまし!(150604)






 春は明け方が一番、と草子に綴った女房が居た。陽が昇るにつれてだんだんと白くなっていく、その山の辺りの空が少し明るくなって、紫がかっている雲がながくたなびいている様子がどれだけ美しいか。それが宮中で流行った時、九重は共感を持つことはなく。
『春は昼つ方。ようよう陽昇りうたた寝するがいとをかし』
 と返して、大層その女房を怒らせた。六百年ぐらい前のことだが、やはり訂正する気には全く慣れない。
「こうやって日差しを全身にあびながら寝るのがいーんじゃん」
 窓を開け放つにはまだ寒い。暖房のほどよくきいた和室、硝子越しに注ぐ温かな光。畳に寝そべりながら、九重は傍らで丸まっている灰色の大きな塊を撫でる。この社で飼われている太った猫だ。性別は雄。
「翠玉もそー思うよねえ?」
 同意を求めれば、猫は億劫そうに片目を開いた。現れた瞳は緑深い泉をのぞきこむ心地にさせる色。毛並みは艶やか、おそらく端整な顔立ち。しかも、蓬、藤猫など雅な異名を持つ。体つきがここまでふくよかでなければ文句なしだ。
 気のなさそうな態度で尻尾を一振り。そのまま猫は再びまどろみはじめた。
「……肉まん食べたい」
「翠玉から連想しないで。九重、問題集解き終わったよ」
 ため息とともに声をかけられる。九重は寝返りをうつと、こたつで勉学に励んでいた桜が開いたノートを見せた。
「おーけー。答え合わせしておく。……じゃあ、暗唱いくか。今日は英語ネ」
 桜の頬に赤みが差し瞳が輝いた。昨日は数学の暗算だった。理数系が苦手な彼女にとって、とてもとても苦痛な時間だったに違いない。ちゃんと出来ていたけれども。
「ハリ○タおぼえた?」
「あ、うん。たぶん……?」
 まあやってみなければ分かるまい。九重は起きあがって、こたつ布団に足をいれた。
「よし。まず、『アズカ○ンの囚人』より。会話を成立させよ。Later, perhaps if you behave」
「なんでそこなの!?」
「It can say in English」
「え……と……I will if she does」
「バタービールってどんな味なのかねえ……。よし、今度の日曜は大阪行こう」
「まさかのUS○……」
 せっかく壮大なスケールで物語を再現したテーマパークが近くにあるのだ。行かねば損である。杖は買わないけれど。とにかくバタービールがとても気になる。便利なグー○ルで検索しようとすると履歴の二行目に〝バタービール まずい〟と出て来るけれど、とりあえず話のネタに飲んでみる価値はある。
「油断したところで。『炎の○ブレット』より。例のヴォルさん〝We bow to each other. Harry〟の次の台詞は?」
「例のヴォルさんって軽すぎないっ?」
「It can say in English」
 桜のツッコミをさらっと交わして九重はびしりと鉛筆を向ける。この大和では、何故か主人公のライバルの名前が一世を風靡した。ツイッターなどでライバルの名前をもじってはしゃいだ呟きを見るたびに、ゴ○ブリほいほいのようだなあと思ったことは秘密である。
「……Come, the niceties must be observed…Dumbledore would like you to show manners….Bow to death」
「最後、〝Harry……〟が抜けてるよ。あともっとあくどく言わなきゃ」
「細かいよ……。というか、これもうハ○ーポッター大好き過ぎる人の会話じゃない?」
 付箋がびっしりついている原書七冊を取って来て、桜はいまの箇所を探し出して復習する。九重はぬるくなったほうじ茶をあおってからきりりと眉を上げた。
「なーに言ってんの。コレ七巻全部原文で理解、暗記できたら、中学英語どころか高校英語の教科書板書するなんて愚行しなくても良いんだから。身体で覚えるの大事よ~」
「はあ……」
 確かに大好きな物語を覚えるのは楽しいし暗記しやすい。理解出来たらもっとおもしろくなる。英語を特に学びたいと言った桜に対して、九重は真っ先にこう言った。
『まず和訳脳を捨てる。大和語から英語、英語から大和という概念は邪魔』
 初等科で少しずつ始められていた英語は〝訳す〟のが主で、聴いて話す能力は伸びない。母国語で理解しようとするから駄目なのだとばっさり切り捨てたのだ。
 最初はわけがわからなかったが、なんとなく感覚を掴みはじめた。すると、どんどん英語が楽しくなって、話すのも苦ではなくなった。九重の発音が綺麗なクイーンズイングリッシュだったおかげだ。
 彼女曰くアイルランド訛りやらスラングやら、とりあえず英語以外に二十カ国語以上は喋れるらしい。けれど、桜の将来の夢を聞いた時、ならばクイーンズイングリッシュが妥当だろうと一貫して教えてくれている。
「まあ半年ぐらいは『ハリーポ○ター』でやっていくから、繰り返し読んでおいて」
「うん」
「必ず理解しながら音読すること。忘れずに」
 人差し指をぴんとたてて言うと、桜は大きく頷いた。九重は時計を見る。午前中ひたすら数学と格闘し、昼餉をとって二時間休憩なし。天気は快晴。朝はまだ凍てつくように寒いが、昼を過ぎればそれも大分緩む。
「散歩しにいこっか」
「ふえ……。でも……」
 桜は積み上がった参考書やら問題集を見る。彼女にしてみればやっとペースを掴んできたのにといったところか。どうも桜は勉強に集中しすぎるきらいがある。世の学生に見習わせたいぐらいだ。だがいまの彼女は仮退院中の身の上である。
「根詰めちゃダメってお医者さまにも言われたでしょ」
 手術から二年が過ぎた。春を呼んだあの日から桜はぐんぐん身体の調子を取り戻し、リハビリにも精力的に取り組んだ。学校はほとんど行けなかったが、三月には晴れて退院となるので、卒業式は出られると本人は喜んでいる。
 けれど油断は禁物。無理のしすぎはよくない。ただでさえ、四月からは東京に移るのだ。環境の変化は知らず知らずにストレスを呼び起こす。少しずつ、焦らずに。難しくとも、これが肝要である。
「こーんな良いお天気なんだから、お外に出て日光浴をしないとネ」
「……そうね」
 九重が指差した窓の外を見て、桜は微笑んだ。そうと決まれば善は急げ。いそいそと主の姿を外出仕様に仕立て上げる。ほわほわの耳あてに、カシ○ヤのマフラーをぐるぐる巻いて、ファー付きのポンチョ。190デニールの黒タイツとユニ○ロの靴下。生足を露出など言語道断である。
「マスクポケットにいれてる?」
「いれたけど、暑い」
「いーのです! 人ごみのなかはばい菌だらけなので必ずつけましょ。んじゃ、いってきまーす」




 がたごとと揺れるバスの中。桜は楽しげにパンフレットを広げていた。
「そーんなに楽しみ?」
「うん。今は蝋梅や梅が見頃かしら」
「桃も咲いてんじゃない? まだ蕾かな」
 嵯峨から下りて、バスでまた郊外を目指す。目的地は戦後重要文化財に指定された《聖蘭邸》だ。四季を通じて花絶える事のない景勝地である。そこには、桜にとって、姉のように慕い、兄の如く敬った彼らが眠っている。沙羅中興期に生きた飛鷹将軍と華室が。
 そういえば、沙羅中興の祖、瑛泉帝をいつしか人々は鳳雛と呼び、崩御後も国作りを助けた将軍を鷹雛と謳い語り継いだ。様々な文献が読み解かれ、簡単に言えば大変仲がよろしかったとされた両人は最近話題の乙女ゲームやギャルゲーの餌食になっている。最新作を早く買わねば。
「九重は何を見ているの? ……ゲーム雑誌?」
「うん。密林で買ったやつはよ来ないかなーって」
 さっと成人指定部分を隠して笑った。兄が女体化し、あれやこれやされているなどと知ったら目の前の主は気を失ってしまうだろう。
「遅くまでやったらだめだからね?目が悪くなってしまうから」
「はいはーい。あ、ついたよ」
 はぐらかしたと可愛らしく拗ねる桜の手をとって、仲良くおりた。すれ違った老婦があらあら可愛いわねえと目を細める。小学生の少女が二人手をつないでほんの少し手入れをした畦道を行く。手を繋ぎたい気持ちも勿論あるが、こういう危なっかしい場所は主の足元をかなり注意しなくてはいけない。ただでさえ何もないところでよく転ぶのだから。
 彼女のフォローをいれるとしたら、大半が小さなあやかしにじゃれられてこける模様。一番最近は砂狸に懐かれて砂まみれですっ転んでいた。邪険に扱う、ということも少しは教えないといけなければ。
「日差しもたっぷり当たって、素敵な所ね」
 門を潜りその敷地内に入ると、桜は懐かしそうにあたりを見渡した。
 聖蘭邸は初代飛鷹将軍が最期の時を送った場所である。半身不随になり第一線を退けながらも、朝廷からは御意見番として厚遇された。最期の最期までかくしゃくとしていたのが彼らしいというかなんというか。
 さく、ざく。日陰は雪解けたばかりの濡れた落ち葉が重なりずっしりとした絨毯になっていた。
 冬から春にかけての散歩コースでは、まず蝋梅に迎え入れられる。見上げれば鮮やかな黄色の花がみなちょこりと首を傾げるように咲いていた。
 春を迎える間際の、喜び踊る息吹。桜は立ちどまって微笑んだ。
「古代では、生の色(きいろ)と書かれていたの。まさにその通りね」
 明るい命。確かに生まれたばかりの赤子はそんな色に満ちている気がする。
「でもさ、山吹の花も黄色だよね? なんかの歌集で黄泉の路に咲く花と聞いた気がする」
 うっかりひねくれた意見が出てしまった。桜は気分を害した様子もなく静かに振り返って笑う。
「山吹は、実を結ばないからそう詠まれたの。叶わない恋という意味で。黄泉の国にも黄色が入っていいたね」
 それではますます死の色ではないのか。九重は唇を尖らせながら首を傾げる。
「五行の土を表すのが黄色ってのと、伽羅では地下の泉を黄泉(こうせん)って呼んでたから、だよね」
書に記す段階でそうなったのかしらん。古代は得意分野ではないが、性格というか癖のようなもので、探究心に一回火がつくと止められなくなってしまう。
 彼女の性質をよく知っている桜は苦笑しつつ自身の考えをのべた。
「色々な説があるよね。……一番納得できる理由は、黄と生は違う色と捉えられていた、とか?」
「あ、納得」
「でも逆に、生と死、どちらの意味もあわせもつ色だったのかも?」
 大和の古神教は光と闇、表と裏はどちらもそれぞれの性質ととらえられる。西洋のように白が正道、黒が邪道と分けられているわけではない。死と闇を司る神は畏れる神ではあるが、眠りを誘い穢れを飲み込む役目を持っているのだ。
「お姫?気になるよう?」
「ふふ。白黒はっきりつけたら、ちょっともったいないじゃあない?」
 曖昧で良いものはそっとしておくのも有りである。仕切り直しも込めて、さっさと桜は歩き出す。九重は引っ張られるままついていった。
 ルートの中継地となる青池は、きんと澄んでまだ寒々しい。冬の冷たさを閉じ込めたような碧さに、はたと九重は既視感を覚えた。
 今握っているこの小さな手のひら。闇の中にぽつんと灯った生への導。翻って差し出された死。眩い光と麗しい白き御手。凍てついた、瑠璃の瞳。
「あのさ、お姫」
 背筋に一瞬走った悪寒に気づかないふりをして、九重はなんとなくを装って桜を呼んだ。
「なあに?」
 深そうだなぁと橋から少しだけ実を乗り出していた桜はきょとんとした顔を向けてくる。
「去年、あの身勝手女神のとこからあたしが還って来たとき、真っ先に『何も食べなかった?』って聞いたじゃん」
「うん」
 木漏れ日が桜に降り注ぐ。丁寧に伸ばされた黒髪は、すべらかな絹のごとく光沢を放つ。甘い蜂蜜を思わせる琥珀の瞳に確かな生気がある。それに何故か心から安堵した。
「あの時は忘れてたんだけどさ、今思い出したよ。なんか勾玉を呑めって言われた」
 桜はぽかりと口をあけて九重を凝視してくる。
「何色だったの……?」
「色にするなら黒なんだろうけど、なんか違うなぁ……。なんか暗闇をそのまま閉じ込めたような……」
 やっぱりとてつもなくやばいものだったのか。さーっと血の気が引いた桜はなんてことを、だとか、まだそんな悪趣味なことをなんて呟いている。一通りあの最上神への積年の想いを吐ききった桜は大きな溜息を吐く。
「……呑まなかったのなら、九重はもう忘れるべきだよ」
「うん忘れる」
 話したことで胸のつかえがおりた。案外人生って、わからなくて良いものばかりなのかもしれない。千年目にして悟ってしまった。

待て続き!
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