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沙羅の語り部
性別:
女性
自己紹介:
沙羅ノ国。一般的には「シュアラ」の呼称がつかわれている。
帝と巫女姫が執政を行うこの国の、雅で切ない物語。名無しの語り部が語るとしよう。
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七夕編はテンションがのったらw(150726)






 互いの温もりをわけあうような深く、長い口付け。甘い吐息をこぼしながら、桜は蒼牙の背中に強くすがりつく。
 腰元に落ちたワンピースは乱れてもうその用途の意味をなくしていた。蒼牙はキャミソールの中に手を滑らせて素肌をなぞりながらブラの留め具を外す。
 一気に心もとなくなり、桜はますます蒼牙にしがみついた。蒼牙は先を進めても良いか判断するためにかすかに唇を離して桜の様子を窺った。濡羽色の睫毛が震えて蜂蜜をたらしたような琥珀の瞳が現れる。共に熱を帯びた視線が絡み合い、桜が蒼牙の背中から首にその細腕をぎこちなく回したのを合図にゆっくり押し倒した。
 ――その瞬間。
「くしゅんっ」
 響いたのは、小さな可愛らしいくしゃみ。きょとりと目を丸くするした蒼牙の下で、桜は慌てて手のひらで顔を隠す。
「寒い?」
「大丈夫、です。ごめんなさい……」
 答える声がだんだんしぼんでいく。あんまりだ、と桜は耳まで赤くしたが、蒼牙は神妙な顔つきになり、傍らの羽織を桜に被せた。
「まだ寒いから。風邪引かせたくない」
 今日はやめよう。言外に告げられ、桜は思わず蒼牙の袖を掴んでいた。
「……そんな顔すんなって」
 あやすように髪を梳かれて、桜は切なげに眉根を寄せる。正直、ほっとした部分もある。けれど。
「かえらなきゃ、だめ……?」
 今彼と離れるのも、それはそれで不安だった。困らせるのはわかっていたけれど、こう言えば彼はからかってくる。桜はそれを望んでいた。いっそ、いつものように、軽い口喧嘩をして、拗ねた勢いで帰ればーー。
「……じゃあ暫く横にいてよ」
 あっけらかんと宣い、蒼牙は桜の傍に体を横たえて、細い体を引き寄せた。ついでにワンピースを引き上げて、律儀にボタンを戻し始める。
 てっきりからかわれるものと思っていた桜はされるがままだ。
「え……あの……」
「俺も今すぐ一人になったら、余計なこと、考えそうだし」
 そうして、寂しそうに笑うものだから、視界がじんわりとぼやけた。桜の考えていることなどお見通しなのだ。きゅう、と胸が切なくなって蒼牙の胸に頬を押し付けた。寝巻き越しに、彼の肌を感じる。熱は、大分下がったようだ。
「……俺さ、相模の海のそばで生まれたんだ」
 指通りの良い桜の黒髪を撫でながら、蒼牙はぽつりと呟いた。腕の中で身じろぎをして顔をあげれば、額に唇が柔らかく押し当てられる。
「東亰じゃ、ないんですか」
「うん。立花の里ってとこ。海の側に、櫛笥神社ってとこがあってさ」
 桜は瞬きをしながら記憶を辿った。宗家である東鬼を支える御三家の中で筆頭にたつ津守は、もともと古代から東国に所縁ある血筋だ。一番古い歌集の東歌を編纂したのも津守――古代は津鬼であった――である。
「……たしか、津守が所有する社の中で一番古いお宮ですよね」
「うん。まあ、どんなだったか全然覚えてないけど。姉上もはっきり思い出せないくらいだから」
 なにせ蒼牙は二つになるかならないかで本家屋敷に移ったのだ。それからすぐに母は亡くなってしまった。
 七つになるまでよく寝込んでいた蒼牙は、松の木々のざわめきに耳をそばだて過ごした。穏やかに打ち寄せる波に似た音は、子守唄のようで。
「……行ってみたい、です」
 やはり生まれた場所が懐かしいからかもしれないと締めくくった蒼牙に、桜は口元を綻ばせた。どんな場所なのだろう。海が近く、緑も豊かで、都会の喧騒には程遠い。彼が懐かしそうに語る、その場所。そうすれば、背中に回った腕に力がこもる。
「都心から車で一時間ぐらいでつくけど、休みとって泊まりがけで行こ」
 さらりと言って蒼牙は笑う。泊まりがけ、ということは、つまり。
 淡白な態度からは計りかねるが、おそらく、そういうことなのだろう。顔を赤らめて、桜は俯いた。
「今日は帰さなきゃいけないし。なにより治療のためじゃ、やっぱヤダ」
 途端に少年らしくむすくれる蒼牙が愛しい。慕っているからこそ大事にしたいのだという真摯な想いが伝わってきて、泣きたくなるほど幸せだった。
「いつが良い? といっても、俺が完全に回復してからになるから――六月以降かな」
 蒼牙は大学生だから時間の融通がきくけれど、自分はそうはいかない。頭の中でせわしなくスケジュールを確認した。
「じゃあ、七夕の日が良いです」
 ちょうど試験休みだ。アルバイトのシフトも開けるつもりだった。
「ああ……付き合いはじめて、ちょうど一年か」
 覚えていたのが意外で目を丸くすると、蒼牙は肩をすくめた。
「忘れもしないよ。桜の卒業式に告白したのに、七夕の夜、付き合ってはいないなんて言っただろ」
「あう」
 肩を縮こまらせ、桜は申し訳なさそうに眉を寄せた。両想いイコール付き合うという概念がなくて、目の前の彼に『両想いになって浮かれていたのは俺だけだったの?』とかなり驚かれ傷つけてしまったことが記憶に新しい。慌てて否定すればむっつりと押し黙り、改めて『結婚を前提に、付き合ってください』と短冊や七夕飾りで彩られた大きな笹の下で告げられた。
「……ごめんなさい。でも、嬉しかったから、今度の記念日は、忘れられないような日にしたいんです」
「ふうん」
「……それに、七夕の夜が初めてなら素敵だなって」
 かぼそい声で付け加えれば、口をとがらせていた蒼牙はころりと機嫌が直ったようだった。
「なら、決まりね。京都の津守本邸ほど広くないはずだけど、使用人がいない方が気張らないでしょ」
 使用人に囲まれるよりは、こじんまりとした生活を好む桜は頷いた。紫鳳院や東鬼は、他の名家とは桁違いの使用人やら行儀見習いの者を置いている。特に紫鳳院に帰ると、古は女官や侍従として仕えていた、矜持の高い使用人に総出で出迎えられる。嵯峨でながらく静養していた桜はいまだに慣れないでいた。
 その御匣殿(みくしげどの)には、管理人夫妻しかいないと聞いて、桜はほっと息を吐いてから、あ、と声を漏らす。
「じゃあ料理は、私が作ります」
「……マジで? いいの?」
 尻尾をふらんばかりに喜ぶ蒼牙に、慌てて言葉を被せた。
「簡単なものしか、作れませんよ? あまり期待されるような腕前じゃあないです」
 それこそ隣の悠や華音には全然及ばない。凝ったお菓子だって作れないし、手際だってあやしい。
「桜の料理ならなんでも良い。俺も手伝うから」
「じゃあ、早く元気になってくださいね」
 くす、と笑みをこぼしてから、桜は随分と部屋が薄暗くなっていることに気付いた。廊下に差した斜陽で、障子はうっすら橙色に染まっている。
(……帰らなくちゃ)
 夕餉と一緒に、青玻が様子を見にくる頃合いだろう。紫鳳院でも、今日は早めに祖父が帰ってくるから、もう行かなければいけない。
 身を起こして暇を告げようとすると、手首を引かれ強く抱き寄せられた。
「ぁ……っ」
 優しく唇が重なり合う。そのまま歯列をなぞって侵入してきた蒼牙の舌が桜の舌をとらえた。
 次に会うのは蒼牙が回復してからになる。そう思うと、自然に桜は絡み合う舌の動きを受け入れていた。息継ぐ間もなくお互いの唾液が混ざり合う。
「……ぅ、んっ」
 服越しに柔らかく胸を触られ、ぴくりと体が震える。その間にも激しく唇を奪われ、熱い痺れが身体中を支配した。淫らで艶かしい感覚に、不思議と羞恥はなく、むしろ甘美さえ覚えて、夢中になって応えた。
 やがて唇が離れ、のしかかっていた重みも消える。桜はくたりと力が抜けてしまったが、蒼牙は息が少し荒くなってるだけだ。
「……知ってた? 体液って、気持ちによって変化するんだよね」
「え?」
「いま、純粋に俺に抱かれたいって思ったでしょ。すっげぇ甘い」
 桜は息を整えるのも忘れて顔を上げた。
「……!? や、うそっ」
「嘘じゃないし、さっきのより数倍効いてる。ほら」
 頬に手を添えられて、蒼牙が覗きこんでくる。見つめてくる瞳は、いつもの黒曜石に戻っていた。涙目でぱくぱくと口を動かす桜に、悪戯っぽく笑いかけるその顔色も、部屋に入った時より格段に良くなっていた。
「それ、じゃあ……最初、のは力にならなかった……ってことですか?」
「いや、助かったよ。言ったろ、桜は特別だって。例えるなら、最初の方は花の蜜。だけど、今のは蜂蜜たっぷりってとこかな。甘さが全然違う」
 舌で唇をぺろりと舐める仕草に釘付けになりながら、桜は沸騰しきった身体を抱きしめる。恨めしげに蒼牙を見るが、ちっともきかないようだった。
「……大分楽ですか?」
「うん。おかげさまで。ありがと」
 安堵の息を吐けば、蒼牙が軽く抱き寄せる。それが、妙に心地よくて、いけないと思いながらもは桜は蒼牙の胸元にすりよるように顔を沈めた。
 規則正しい蒼牙の鼓動が聞こえるのが嬉しくて、安心しきってしまう。どこか張り詰めていたものが一気に緩んだ。とろんとする意識のなか、額に優しくキスが落ちる。
「寝て良いよ。送るぐらいはできるから」
 扇だけ出しておいて、と言われて桜は怪訝な顔をした。
「まだ具合悪いのに」
「いや、少し消耗しないと怪しまれる。ほんと、無自覚だね」
 どういう意味だろう。その問いかけは言葉にならず、桜は魔法をかけられたように蒼牙の腕のなかで眠りに落ちていった。


※※※

 ――七夕、楽しみにしてる。

 耳元で囁かれたような気がして、桜の意識がゆっくりと浮上する。
(久しぶりに、よく眠れた……)
 すぐに覚醒しない。そのままぼんやりとベッドサイドの舶来物のランプをながめ、違和感を覚える。
「え……?」
「あら、起きましたね」
 瞬きを繰り返しながら顔を上げると、枕元の1人がけのソファにゆったりと腰掛けた叔母がいた。膝の上には読みかけの本が置いてある。
「夕食にはまだ時間があるから、横になっていて大丈夫よ」
「え? 私……どうやって……」
 混乱しきりの姪に、雪音は本を閉じて茶目っ気たっぷりに笑いかけた。
「わたくしが鈴の音を気付いてこの部屋に入った時にはもうすうすうと眠っていたわ。多分、それと扇を媒介にして送ってくれたのね」
 それ、とネグリジェの胸元を指され、銀のチェーンをたぐろうとして、桜は目を見開いた。どう考えてもこれは皮の紐の感触だ。見下ろすと、小さな翡翠の珠が胸元で煌めいていた。とりあえず本当に蒼牙が送ってくれたのだと認識してから、一気に青ざめる。
「……指輪……」
 ここにはもともと彼から贈られた指輪があったのに、それがない。おろおろしていると、雪音がたまらず噴き出した。
「桜、落ち着いて左手を見なさいな」
 促されて自分の左手をみると、薬指に探していた白金の指輪がはまっていた。チェーンは、手首に巻いてある。左手を握りしめて桜はようやくほっとした。
 姪が落ち着くのを待って、雪音はソファから立ち上がる。
「さあ、そろそろお父さまが着く頃ね。髪をとかして、着替えましょう」
「はい。おねえさま」
「貴女は雪路が贈ったカクテルドレスより、着物の方が良いかもしれないわ」
 そう言ってワードローブに向かう叔母の背中を、桜はきょとんと見つめる。
「でも……今日着るとお兄さまに約束してしまいました」
 総羽根模様の美しい撫子色をの訪問着をなよらかに広げた雪音は含みのある笑みを浮かべた。
「鏡をみてまだ貴女が言うのなら仕方ないけれど、救急車はよろしくないわね」
 首を傾げながらチェストに置かれた手鏡をとって、自分を映した瞬間、桜は耳まで染めて固まった。
「どうしますか?」
「お着物で……!」
 恥ずかしさに消え入りたくなりながら桜はそれだけを返した。そして、真っ赤になったまま指輪を強く握る。

 白い胸元には、紅い花びらがひとつ散っていた。


fin.
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